・・・御参考までに、こんな僕が今使っている自分用のフライのことも少し述べておこう。フライの素材は山ほどあるが、傷が絶えないボロボロの指で扱うことを前提とすると、選択肢はおのずと限られてくる。自然に手が伸びるようになるのは、オーストリッチハール、オポッサム、チカブー、マラブーなどといった感触が柔らかな素材だ。これらのありふれた羽根や毛は価格もごく安いという利点もあるが、ありがたいのはそこではない。この手のフワフワモノは刺激に過敏な皮膚に触れてもわりと痛くないのだ。「タイイングする時の痛覚の少なさの程度」と「魚の食いっぷり」とが正比例していることに気づくのはそう時間が掛からなかった。そしてそれは、いわゆるフライのウツクシサとはまるで無関係なのだった。
無関係どころか、絢爛豪華でバロック的なテンコ盛り感の対蹠点にありそうな質素で見すぼらしい毛鉤ほど魚に気に入られるのではないか…とさえ解釈できそうな現象を頬をゆるめつつしばしば観察した。単に素材の感触云々だけではなくて、手かずが少ないタイイング、というかあまり手間をかけると指がつらいので、必要最小限のことしかやっていないような代物が魚のお気に召すフシも無きにしもあらずだったりする。あまりベラベラ喋り過ぎる詐欺師より、言葉少なにボソボソ語って大金を巻き上げてしまう詐欺師の方が、詐欺師として格上かどうかは知らないが、そこには訥弁ゆえに相手の欲を一層喚起するというパラドックスが働いているのだろう。釣れるフライのヒントはこのあたりにも潜んでいるのではないか。・・・