「NEO旗揚げ10周年記念大会で解散発表」ニュースに思う

女子プロレス界のビッグニュース

このところ締め切り前の編集地獄にかまけていたために、女子プロレス界の大きな事件を今日になって知った。5月5日、NEO旗揚げ10周年記念後楽園大会で発表された井上京子選手退団と、NEOの年末解散のことである。それに旗揚げメンバーのよっちゃん、タニー、宮崎の引退も。

インターネット登場以前、プロレスニュースはバイアスのかかりまくった東スポ記事、通り一遍のことしか書かない日刊スポーツ、あるいは週に一度の週刊プロレスか週刊ファイトでしか知り得なかった。だから5日のニュースを8日に知るのはそれほど遅くもないのだが、私がこのニュースを聞いてなにがしかの感慨を覚えるのには訳がある。

なんだこのザマは!

NEOの前身、ネオレディース(新日本女子プロレス)は井上京子選手が1997年に全日本女子プロレスから独立して立ち上げた新興団体だった。旗揚げ戦は翌1月、しかしよかったのは最初だけで思うように客が入らず興行は苦戦が続いた。

半年後の6月、プロレスの聖地・後楽園ホールでのネオレ大会で、団体のエースである井上京子選手が試合終了直後にマイクを持ち、リング上から「おい、フロント! なんだこのザマは!」と、ガラガラの客席を指差して営業不足を激高するという事件が起こった。じつはこのとき私は後楽園ホール南側のリングサイド席センターでお菓子を食べながら観戦していたので、自分が怒られたみたいにびっくりした。試合を終えたばかりでまだ湯気が立っているような戦闘態勢の京子にビシッと指差されるとやはりこわい。

チャパの想いと客の夢

この大会はネオレ旗揚げメンバーのチャパリータASARI選手が長年の念願かない、はじめて憧れの京子選手とメインイベントで対戦するというメルクマール的な意味があった。試合には敗れはしたもののチャパはよくがんばったと、客席のASARIファンは私も含めて感動の渦のなかにいた。チャパの想いやファンの存在に思いがゆかない井上京子は、今風に言えば空気を読めない無粋な女だったということだ。

なにしろ京子選手にナイアガラドライバーかなにかで強烈なフォールをとられたばかりの愛弟子チャパは、まだコーナーにうずくまっていたと思う。そのチャパを無視して夢も希望もぶちこわすカネ絡みのマイクパフォーマンスを始めたわけだから、うるさがたの多い後楽園の客からは戸惑いとともにブーイングも起きた。私も遠慮がちに「Boo」と言った。お菓子を吹き出さない程度に。「おれは〝このザマ〟の中のひとりかよ」と思いながら。

ネオレディースはこんな京子選手をエースとして立ち上げられた団体だ。当然のことながらと言うべきか結局まもなく解散した。チャパも退団引退。ネオレは社長を替えてNEO女子プロレスとして再出発した。京子選手は結婚出産で一時試合を遠ざかったが子どももちょっと大きくなったということでここにきて闘いの前線へ戻ってきていた。

ムラには引きずりこまれたくない

さて、私はネオレディース時代にはほぼすべての後楽園大会はもちろんのこと、川崎体育館大会、埼玉狭山の西武球場脇駐車場大会、果てはASARI選手(実家はコンビニ経営)の地元荒川区南千住特設リングといったコアな闘いまでも、しつこいストーカーのように追いかけていた。よほどヒマだったか、それとも私生活でなにかつらいことがあり、プロレスを見て気持ちを紛らわせようとしていたのかは分からない。

だが今から10年前、NEOになって以降は団体の雰囲気が変わった。ちょうどプロレスブームがガクンと落ち込んだ時期でもある。自ら「世界一平和なプロレス団体」と標榜したことにも象徴されるように、どうせマイナーなんだからとプロレスマニアのためのプロレスマニアな演出がなされるようになった。私はそういうムラのなかでの安直な開き直りというか自己模倣の増殖をするプロレスはきらいだ。

NEOを試合会場へ観に行ったのはこの10年間でほんとうに数えるほどしかない。最も最近観に行ったのは、松尾永遠選手がよっちゃんを破って二冠王になった2007年9月のNEO後楽園ホール大会である。それも子連れで第3試合が始まったくらいに会場へ到着して、タニーとか宮崎とかのマニア向けな試合はロビーに出てビールを呑んでいるというきわめてダラケた観戦であった。

ごめんなさいね

だから今回の井上京子選手退団、NEOの年末解散、よっちゃん、タニー、宮崎の3選手引退は、現役のNEOファンにはとんでもなく衝撃的で哀しいニュースなのであるが、本当を言うと、私にはそのことについてなにを語る資格もない。

なぜなら最近のNEOの客ではない私が、いままさに終焉を迎えようとしているNEOについて昔の自分勝手な印象を引き合いに出して感想を述べることは、まともに読んでいない本を書評するようなものであるからだ。あるいは、はるか以前に一度だけでかけたことのあるレストランの感想を、さも知ったかぶりをしてネットに書き込むような頭の悪いふるまいである。

今回5月5日、こどもの日のNEO旗揚げ10周年記念興行で、後楽園ホールの客入りは976人だったそうだ。後楽園は超満員札止めで2013人入る会場である。京子は会場を見まわして「なんだこのザマは」と思ったのだろうか。

とか言っちゃあいけないんだ。