ほとんどの釣り人が知らない間に、議員立法の「内水面漁業の振興に関する法律」(内水面振興法)が6月13日に衆議院を通過した。
『フライの雑誌』誌上でも本欄でも度々繰り返して言っていることだが、いま日本では本来的な意味において、内水面(川と湖)での漁業は行われていない。内水面漁協の組合員はほぼイコール釣り人だ(釣りをしない組合員もいる)。日本の内水面漁業は「釣り人」の存在を抜きにしては考えられないと、水産庁でさえ公に認めている。
しかしこの新しい「内水面漁業の振興に関する法律」の条文を読むと、肝心な内水面漁場の担い役である「釣り人」を念頭に置いた文言は、ひと言も入っていない。お説ごもっともな美辞が並べ立てられているばかりだ。
そもそも、これだけ財政が逼迫している日本において、今どき内水面漁業が新しい法律を作って税金をばらまくだけの意味のある対象なのかどうか。政治家と既得権益者の利益誘導によって、何が行われようとしているのか。
本件については『フライの雑誌』次号第102号の誌面上でも触れる予定だ。
以下は衆議院のホームページから転記した。
第一 総則
一 目的
この法律は、内水面漁業の振興に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、内水面漁業の振興に関する施策の基本となる事項を定めることにより、内水面漁業の振興に関する施策を総合的に推進し、もって内水面における漁業生産力を発展させ、あわせて国民生活の安定向上及び自然環境の保全に寄与することを目的とすること。 (第一条関係)
二 基本理念
内水面漁業の振興に関する施策は、内水面漁業が水産物の供給の機能及び多面的機能を有しており、国民生活の安定向上及び自然環境の保全に重要な役割を果たしていることに鑑み、内水面漁業の有する水産物の供給の機能及び多面的機能が適切かつ十分に発揮され、将来にわたって国民がその恵沢を享受することができるようにすることを旨として、講ぜられなければならないこと。 (第二条関係)
三 定義
1 この法律において「内水面漁業」とは、内水面における水産動植物の採捕又は養殖の事業をいうこと。
2 この法律において「多面的機能」とは、生態系その他の自然環境の保全、集落等の地域社会の維持、文化の伝承、自然体験活動等の学習の場並びに交流及び保養の場の提供等内水面漁業の生産活動が行われることにより生ずる水産物の供給の機能以外の多面にわたる機能をいうこと。
3 この法律において「内水面漁業者」とは、内水面漁業を営む者をいうこと。 (第三条関係)
四 国の責務
国は、二の基本理念(五において単に「基本理念」という。)にのっとり、内水面漁業の振興に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有すること。 (第四条関係)
五 地方公共団体の責務
地方公共団体は、基本理念にのっとり、内水面漁業の振興に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有すること。 (第五条関係)
六 内水面漁業者の努力
内水面漁業者は、内水面における水産資源(以下「内水面水産資源」という。)の回復、内水面における漁場環境の保全等の取組を自ら行うとともに、国又は地方公共団体が実施する内水面漁業の振興に関する施策に協力するよう努めるものとすること。 (第六条関係)
七 財政上の措置等
国は、内水面漁業の振興に関する施策を実施するために必要な財政上の措置その他の措置を講ずるものとすること。 (第七条関係)
八 連携協力体制の整備
国及び地方公共団体は、内水面漁業の振興に関する施策を効果的に実施するため、国、関係地方公共団体、海面及び内水面に係る漁業協同組合その他の関係者相互間の連携協力体制の整備に努めるものとすること。 (第八条関係)
第二 基本方針等
一 基本方針
1 農林水産大臣は、内水面漁業の振興に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めるものとすること。
2 基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとすること。
内水面漁業の振興に関する基本的方向
内水面水産資源の回復に関する基本的事項
内水面における漁場環境の再生に関する基本的事項
内水面漁業の健全な発展に関する基本的事項
その他内水面漁業の振興に関する重要事項
3 基本方針は、水産基本法第十一条第一項の水産基本計画との調和が保たれたものでなければならないこと。
4 農林水産大臣は、基本方針を定めようとするときは、あらかじめ、国土交通大臣及び環境大臣に協議し、それらの同意を得るとともに、水産政策審議会の意見を聴かなければならないこと。
5 農林水産大臣は、基本方針を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならないこと。
6 農林水産大臣は、内水面漁業をめぐる情勢の変化を勘案し、及び内水面漁業に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね五年ごとに、基本方針を変更するものとすること。 (第九条関係)
二 都道府県計画
1 都道府県は、当該都道府県の区域にある内水面について、内水面水産資源の回復に関する施策及び内水面における漁場環境の再生に関する施策を総合的かつ計画的に実施する必要があると認めるときは、基本方針に即して、これらの施策の実施に関する計画(以下二において単に「計画」という。)を定めるよう努めるものとすること。
2 都道府県は、計画を定めようとする場合において、当該計画に係る内水面について河川管理者があるときは、あらかじめ、当該河川管理者に協議しなければならないこと。
3 都道府県は、計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表するよう努めるものとすること。
(第十条関係)
第三 内水面漁業の振興に関する施策
一 内水面水産資源の生息状況等の調査
国及び地方公共団体は、内水面水産資源の回復に関する施策及び内水面における漁場環境の再生に関する施策を総合的かつ効果的に実施するため、内水面水産資源の生息の状況及び生息環境その他これらの施策の実施に関し必要な事項について調査を行うよう努めるものとすること。 (第十一条関係)
二 内水面水産資源の回復に関する施策
1 内水面水産資源の増殖及び養殖の推進等
国及び地方公共団体は、内水面水産資源の増殖及び養殖の推進を図るため、自然環境との調和に配慮しつつ、内水面水産資源の種苗の生産及び放流の推進、増殖及び養殖に関する技術の研究開発の推進並びにその成果の普及その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
国及び地方公共団体は、水害等による内水面水産資源に係る被害が甚大である場合において特に必要があると認めるときは、内水面水産資源を緊急に回復するための種苗の放流の実施等に対する支援その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。 (第十二条関係)
2 特定外来生物等による被害の防止措置に対する支援等
国及び地方公共団体は、オオクチバス等の特定外来生物(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律第二条第一項に規定する特定外来生物をいう。)及びカワウ等の鳥獣(鳥類又は哺乳類に属する野生生物をいう。)(以下2において「特定外来生物等」と総称する。)による内水面水産資源に対する被害を防止するため、当該被害を防止するための措置の実施に対する支援、特定外来生物等の効果的な駆除のための技術開発、特定外来生物等の広域的な個体数を管理する手法の開発その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。 (第十三条関係)
3 内水面水産資源に係る伝染性疾病の予防等
国及び地方公共団体は、内水面水産資源に係る伝染性疾病の予防及びまん延の防止を図るため、必要な情報の提供、内水面水産資源に係る移動の制限その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。 (第十四条関係)
三 内水面における漁場環境の再生に関する施策
1 内水面に係る水質の確保
国及び地方公共団体は、内水面水産資源の生育に資する水質の確保を図るため、下水道、浄化槽その他の排水処理施設の整備その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。 (第十五条関係)
2 内水面に係る水量の確保
国及び地方公共団体は、内水面における豊かな水量が内水面水産資源の保全及び栄養塩類の海への円滑な流入による海洋水産資源の保全に資することに鑑み、内水面における水量の確保を図るため、雨水を地下に浸透させる機能を有する施設の普及その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。 (第十六条関係)
3 森林の整備及び保全
国及び地方公共団体は、森林の有する水源の涵(かん)養の機能の発揮により良質な水の安定供給を確保する観点から、内水面水産資源の生育環境の保全及び改善に資するよう、森林の整備及び保全に努めるものとすること。 (第十七条関係)
4 内水面水産資源の生育に資する施設の整備
国及び地方公共団体は、内水面水産資源の生育に資するため、魚道の整備及びその適切な維持管理、産卵場の造成その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。 (第十八条関係)
5 自然との共生及び環境との調和に配慮した河川整備の推進
国及び地方公共団体は、内水面水産資源の生育環境の改善その他内水面に係る生態系の保全に資するよう、自然との共生及び環境との調和に配慮した河川の整備を推進するよう努めるものとすること。
(第十九条関係)
四 内水面漁業の健全な発展に関する施策
1 効率的かつ安定的な内水面漁業の経営の育成
国及び地方公共団体は、効率的かつ安定的な内水面漁業の経営を育成するため、内水面に係る漁業協同組合に対し、技術及び経営についての助言及び指導その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。 (第二十条関係)
2 多面的機能の発揮に資する取組への支援等
国及び地方公共団体は、内水面漁業の有する多面的機能が将来にわたって適切かつ十分に発揮されるよう、内水面漁業者が行う多面的機能の発揮に資する取組に対する支援その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。 (第二十一条関係)
3 人材の育成及び確保
国及び地方公共団体は、効率的かつ安定的な内水面漁業の経営を担うべき人材の育成及び確保を図るため、内水面漁業者の漁業の技術及び経済管理能力の向上、新たに内水面漁業に就業しようとする者に対する就業に関する相談等の援助並びに内水面漁業の技術及び経営方法の習得の促進その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。 (第二十二条関係)
4 商品開発の取組等への支援
国及び地方公共団体は、国民の需要に即した内水面水産資源の生産並びに加工及び流通が行われるよう、内水面水産資源の食材としての品質の向上の取組、内水面水産資源に係る商品の開発及び需要の開拓の取組等に対する支援その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
(第二十三条関係)
5 回遊魚類の増殖の取組への支援等
国及び地方公共団体は、回遊魚類(内水面と海面との間を往来する水産動物をいう。以下5において同じ。)の持続的な利用の確保を図るため、回遊魚類の増殖の取組に対する支援その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。 (第二十四条関係)
6 国民の理解と関心の増進
国及び地方公共団体は、内水面漁業に対する国民の理解と関心を深めるよう、内水面漁業の意義に関する広報活動、川辺における自然体験活動に対する支援その他の必要な措置を講ずるよう努めるとともに、内水面水産資源の適切な管理に資するため、遊漁規則(漁業法第百二十九条第一項の遊漁規則をいう。)等の遵守に関する啓発活動その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
(第二十五条関係)
五 指定養殖業の許可及び届出養殖業の届出
1 指定養殖業の許可
漁業法の規定が適用される水面以外の水面で営まれる養殖業であって政令で定めるもの(以下「指定養殖業」という。)を営もうとする者は、養殖場ごとに、農林水産大臣の許可を受けなければならないこと。
指定養殖業の許可は、養殖場において養殖することができる水産動植物の量を定めて行うものとすること。
の政令は、当該養殖業に係る内水面水産資源の持続的な利用の確保又は内水面漁業の持続的かつ健全な発展のため養殖業を営む者及びその養殖場について制限措置を講ずる必要があり、かつ、政府間の取決めその他の関係上当該措置を統一して講ずることが適当であると認められる養殖業について定めるものとすること。 (第二十六条関係)
2 届出養殖業の届出
漁業法の規定が適用される水面以外の水面で営まれる指定養殖業以外の養殖業であって政令で定めるもの(以下「届出養殖業」という。)を営もうとする者は、養殖場ごとに、その養殖業を開始する日の一月前までに、農林水産省令で定めるところにより、名称又は氏名及び住所等を農林水産大臣に届け出なければならないこと。
の政令は、当該養殖業に係る内水面水産資源の持続的な利用の確保又は内水面漁業の持続的かつ健全な発展のためその実態を把握する必要があると認められる養殖業について定めるものとすること。 (第二十八条関係)
3 実績報告書の提出
指定養殖業の許可を受けた者(以下「許可養殖業者」という。)及び2の届出をした者(以下「届出養殖業者」という。)は、農林水産省令で定めるところにより、指定養殖業又は届出養殖業を行う養殖場ごとの当該養殖業に係る実績報告書を作成し、農林水産大臣に提出しなければならないこと。
(第二十九条関係)
4 漁業法の準用
指定養殖業の許可に関しては、漁業法第三章(第五十二条から第五十五条まで、第五十六条第一項第三号、第五十八条の二第一項ただし書及び第五項、第五十九条第四号並びに第六十二条の二第二項を除く。)及び第百三十三条の規定を準用するものとし、この場合における読替えについて定めるほか、必要な技術的読替えは、政令で定めること。 (第三十条関係)
5 報告徴収及び立入検査
農林水産大臣は、指定養殖業の許可その他五の事項を処理するために必要があると認めるときは、許可養殖業者若しくは届出養殖業者に対し、指定養殖業若しくは届出養殖業に関して必要な報告を求め、又はその職員に養殖場、事業場若しくは事務所に立ち入り、その状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができること。 (第三十一条関係)
第四 協議会
一 内水面において漁業法第六条第五項に規定する共同漁業の免許を受けた者(以下第四において「共同漁業権者」という。)は、農林水産省令で定めるところにより、当該免許に係る都道府県知事に対し、当該免許に係る内水面における内水面水産資源の回復、内水面における漁場環境の再生その他内水面漁業の振興に関し必要な措置について協議を行うための協議会(以下第四において単に「協議会」という。)を設置するよう申し出ることができること。
二 一の申出に係る都道府県は、一の協議が必要であると認めるときは、協議会を設置することができること。
三 協議会は、当該協議会を設置する都道府県、一により当該協議会の設置を申し出た共同漁業権者、当該協議会における協議に係る内水面について河川管理者がある場合には当該河川管理者、当該協議会における協議に係る事項について学識経験を有する者その他当該都道府県が必要と認める者で構成するものとすること。 (第三十五条関係)
第五 罰則
罰則について所要の規定を定めること。 (第三十六条から第四十条まで関係)
第六 その他
一 施行期日
この法律は、公布の日から施行すること。ただし、第三の五及び第五は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行すること。 (附則第一条関係)
二 平成二十三年原子力事故による被害等への対策
1 国及び地方公共団体は、当分の間、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故(2において「平成二十三年原子力事故」という。)により被害を受けた地域における内水面漁業の復興及び再生を推進するため、内水面に影響が少ない放射性物質による汚染の除去等の措置に係る技術の開発、事故由来放射性物質(平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法第一条に規定する事故由来放射性物質をいう。)による汚染の有無又はその状況が明らかになっていないことに起因する漁場の利用への支障及び内水面水産資源の販売の不振への対処の取組に対する支援その他必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
2 1のほか、国及び地方公共団体は、当分の間、平成二十三年原子力事故による災害に伴い講ぜられた内水面水産資源の出荷を停止する措置及び内水面水産資源の採捕を禁止する等の措置により損失を受けた内水面に係る漁業協同組合を支援するため、必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。
(附則第四条関係)
三 検討
政府は、この法律の施行後速やかに、内水面に排出又は放流される水についての実態を踏まえ、水質汚濁防止法、浄化槽法等による当該水に係る規制の在り方について、内水面における漁場環境の再生等の観点から検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとすること。 (附則第五条関係)
四 その他
その他所要の規定の整備を行うこと。