『フライの雑誌』第94号の読み方〈前半〉

タイトルからして妙な『フライの雑誌』を、これまで読んだことのない方にも興味を持ってもらって、楽しく読んでもらうために、編集者が勝手に解説します。今回はその前半です。

『フライの雑誌』第94号の読み方

002 ロッドをザックに詰め込んで7
フライを知らないなんて人生の損失だ  残間正之
・今号の巻頭もこの方のエッセイを。飄々とした文章の裏側に、世界各地を放浪し死線をくぐりぬけてきた残間さんならではの、冷徹な文明批評が透けて見える。前号93号の震災直後の文章はしみじみ怖かった。近年は札幌をベースに講演など多岐に活躍中。

006 フライ巻き職人のひとりごと3
ストリップド・ピーコックハール&アイ  牧 浩之
・牧さんが初めて『フライの雑誌』に名作「マッチ・ザ・バッチ」で登場してから7年。どんどん文章がうまくなって、いまや誰にも真似できない「牧節」を確立した感がある。今秋には九州へ移住予定で、そのあたりの経緯は92号「お義父さんと呼ばせてください!」にくわしい。今回はほんの少しお色気路線か。新婚だからね。

010 特集◎ あなたのフライボックスはなんですか?
・第94号の第一特集は定番「モノ」系の超保存版です。本誌のこれまでのモノ特集(67号「私の好きなフライリール」とか)はなぜか売り切れが早い。今号も相当ヘンタイ的に面白いんじゃないかと思います。

カラーグラビア◎ 名品、珍品、意味不明品。個性派フライボックス大集合!
・よくもフライボックスばっかり、これだけ集めた、並べた、整理した。掲載総数100近くはおそらく世界最多。すべてのボックスの一つ一つに、ボックスマニアの詳しすぎるコメント解説つき。なにもそこまで、アホやねえ、と呆れて笑ってください。このグラビアだけでも一見の価値あり。

東西ガチ対談◎ 平野貴士さん×中村昌平さん
・ヘンタイのヘンタイによるヘンタイのための特集の頭は、ヘンタイ雑誌の本誌でしかありえへんヘンタイ対談。堂々6ページをぶち抜きヘンタイ。

オールド・フライボックスの魅力◎ 伊井明生さん
・取材で伊井さんのお店へ行った。大量のふるーいフライボックスに埋もれてニコニコ笑っていた伊井さんの怪しいオーラが忘れられない。

フライボックス製作者の本音 ◎樋渡忠一さん
・名うての木工職人にしてユスリカ・マスター、シニアなヘンタイ・フライフィッシャーの樋渡さんがかたる「使いたくないフライボックスの条件」とは。

累計販売個数ミリオン◎ C&Fデザインさん
・ヨーロッパ、アメリカで最初に売れ出した日本発のフライボックス・メーカー、C&Fデザインさんに直撃取材。聞きづらいことも聞いてきたりして。

特別エッセイ◎ 真柄慎一「開げでみろ。」
・『朝日のあたる川』で新聞書評にも登場して中ブレイクした朝日のあたる男=真柄慎一氏による、素晴らしいエッセイ。届いた原稿を一読して震えました。「やっぱり真柄さんは天才だ」。本人が自分の才能をまったく意識していないところが天才の証。

わたしのボックス整理術◎ 竹田正さん/松井真二さん/白川元さん/市村晃さん/渋谷直人さん/杉浦雄三さん
・本誌名物連載「隣人のフライボックス」に出てくれたヘンタイさんたちに聞いたフライボックスのヘンタイ整理術。ありそうでなかった面白企画。ヘンタイさんに聞くんだから答えも当然ヘンタイでした。

040 釣ったり、釣られたり7: 絶滅危惧種、メダカを釣るか つがおか一孝
・1980年代、ルアー&フライが一番熱かった頃の『Angling』誌の表紙でおなじみ。葉山在住のつがおか画伯の楽しいッセイ。オチが効いています。もちろん描き下ろしのイラストもじっくりと。

042 パニック・ライズ3: オオクママダラカゲロウ篇 松井真二
・出ました、ヘンタイ桂師の最新作。桂のヘンタイ尺ヤマメをドライでどう攻略するかの苦心惨憺のエッセンスがここに。今年の3月11日の朝、わたしはたまたま桂川で松井さんと合流し、互いに近くで釣っていました。「ライズありますかぁ?」とか言いながら。まさかその後

048 悩まないフライマンたちへ30: なぜ毎日釣りするの? 中馬達雄
・またヘンタイさんです。ていうか本誌にはヘンタイさんしか登場しません(断言)。約30年間ほぼ毎日、地元鹿児島で海フライを楽しんでおられる中馬さんの周囲には、やっぱりヘンタイさんが集まるみたい。「毎日釣りする」人々のヘンタイな日常が赤裸々に。

052 日本釣り場論68: 〝放射能汚染時代〟の魚の選び方  国が決めた暫定基準値「500ベクレル/㎏」を疑え! 水口憲哉(東京海洋大学名誉教授)
・ヘンタイな毎日を楽しく過ごせるのも、人間が健康に暮らせる環境があってこそ。国が決めた「暫定基準値」はウソ八百。直ちに健康に影響はないとは、後から影響がでるかもしれない、ということ。自分の身は自分で守りましょう。忌まわしい原子力発電所事故がいまなおも進行している現状で、水口憲哉東京海洋大学名誉教授が最新の水産物の放射能汚染データを分析。

つらいことですが、安全な魚の選び方について、はっきりとした目安を示しました。今日の夕ごはんのお魚選びから実行できます。こういった内容は一般紙や商業誌には載りづらいと思いますが、マスコミタブーは本誌にはありません。

たのしい釣りをしつづけるために、釣り以外のいろいろなことも考えます。やわらかい記事もかたい記事も、境界なくとりあげるのが本誌のスタンスです。

『フライの雑誌』94号の読み方〈前半〉はこれでおしまい。〈後半〉の解説は、近日中にまた。

寄稿者の皆さん、勝手なこと書きましたがおこらないでくださいね。しょせん釣り雑誌です。

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