自分のフライボックスの中身は、ここ数年で今がもっとも充実している。
というのも、さいきんフライタイイングが楽しくてしかたない。きっかけはストレッチボディの「挟んでクルクル」だったとして、タイイングが楽しいから釣りに行きたくなる、釣りに行くからもっと巻きたくなる、巻きたくなるからもっと釣りに行きたくなる、という悪循環だ。(好循環ですよ!)
今シーズンに入って行っている釣り場は、桂川、浅川、河口湖、中禅寺湖、忍野、多摩川、犀川、あちこちの管理釣り場などなど多岐にわたる。〈そういうの初めて!〉みたいな釣り場も多い。巻きたい、試したい、釣りたい、釣れた、もっと巻こう、もっと試そう、もっと釣りたい、の悪循環だ。(好循環ですよ!)
仕事する暇がないほどである。
フライタイイングとフライキャスティングは、やればやるほど上手になる。上手になればもっとやりたくなる。
昨日の午前中は、編集部の前の道路で、来週の釣りのためにあたらしいフライロッドとラインを組み合わせて、少しラインを出してバランスをみていた。するとご近所に住まわれている顔見知りのご婦人がたまたま通りがかって、会釈をした。地元の小学校で長年ボランティア活動をされている品の良いご婦人である。
夕方、編集部の玄関のピンポンが鳴った。
わたしが出ると、そのご婦人がにこやかに立っておられて、「お願いがあるの。」とおっしゃる。うちの子どももさんざんお世話になっているご婦人である。お願いにはできれば応えたい。お話しをうかがうと、地元の小学校で放課後に自習教室をやっているのだけれど、先生役が足りないから手伝ってほしいの、ということであった。わたしに先生役ができるかどうか、まあ一日くらいなら手伝えると思います。
「いつでしょうか。」
「火曜日なの。」
「来週の火曜ですか。」
「いえ、ずっと。」
「ずっと!?」
「あなた失業中なら、手伝っていただけないかと思って。今日も釣りの竿で遊んでらしたでしょう。」
ああ、わたしはたしかに平日の真っ昼間から、道路で釣り竿を振り回していました。夕方はほぼ毎日、短パンにサンダル履きでオイカワ釣りをしています。近所の子どもを引き連れてるときもあります。そういう決定的シーンをあなたに何回か見られているのも分かっています。
でも失業しているわけではないんです。
自分は釣りの関係の雑誌と単行本を編集しているんです。遊んでいるようなものだけど、一応、これが仕事みたいなものなんです。
と、ご婦人にお伝えした。
そこの二階の部屋が、一応、編集部ということになっています。
ご婦人は両手を顔にあてて驚かれ、まあ、ごめんなさい! と謝られた。わたしに対して、すごく失礼なことを言ってしまったと思われたのだろう。
この場合、非があるのはあきらかにわたしのほうである。「遊んでるようだけど、一応、仕事みたいなものなんです。」と自分で言いながら、自分で(ほんとか。)と思っている。
「一応」を連発しているのも、客観的に考えて意味がよく分からない。
とりあえず、「失業中じゃなくて現役なら、教室の先生は頼めないわね。ほんとにごめんなさいね。」ということになった。いえいえ、本当に申し訳ないのはこちらです、と心から謝った。
ここはひとつ、わたしが一応、釣り関係の編集の仕事をしている証拠を、お渡ししておきたいと思った。
しかし、『フライの雑誌』をお渡ししても普通の人にはわけがわからなくて、怪しさがさらに増すだけだろう。
ここは『宇奈月小学校フライ教室日記』か、『山と河が僕の仕事場』だなと考えて、だだっと二階へ走って『山と河が僕の仕事場』を持ってきて、ご婦人に手渡した。「これ、さいきんよく売れてる本ですから。」と言い添えた。
ご婦人は、「あら、悪いわね、読ませていただくわ。」と喜んで受け取ってくださった。
どうぞ、釣りをしない方にも、楽しんでいただける本だと思います。
来週は、わたしは北へ釣りの旅へ行ってきます。
本人は一応、仕事だと思っています。
・・・
フライの雑誌 125(2022夏秋号)
> くわしい内容はこちら
Flyfishing with kids.
一緒に楽しむためのコツとお約束
子供と大人が一緒にフライフィッシングを楽しむためのコツとお約束を、子供と大人で一緒に考えました。お互いが幸せになれるように、子供が子供でいられる時間は本当に短いから。
子供からの声(10〜12歳)|大人からの声|水産庁からの声|子供と遊ぶための道具と技術と心がまえ|釣り人の家族計画|イギリスの場合|「子供釣り場」の魅力と政策性
特別企画◎シマザキワールド16 島崎憲司郎
座談会「みんなで語ろう、ゲーリー・ラフォンテーン」
そして〈シマザキフライズ〉へ
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