ダム反対だった小国川漁協が転向|報道・意見のまとめと本誌の考え方

『フライの雑誌』およびフライの雑誌社ウェブサイトでは、山形県最上小国川の小国川ダム問題を継続してとりあげている。ダム予定地に漁業権を持つ小国川漁協はこれまで一貫してダム反対を掲げてきた。が、2014年6月8日に漁協総代会を開き、山形県のダム案を受け入れる決議を57対46の賛成多数で可決した。このことについて、多くの報道機関が記事化し、様々な立場からの意見が発信されている。以下にまとめた。本誌編集部の意見は最下部に記した。

住民の安全安心を確保するため、一刻も早く最上小国川の治水対策に道筋を付けるという県の責務は明確だ。清流を守り、内水面漁業振興を図るという漁協の目的もはっきりしている。地元・赤倉地区の住民の願いは「安心できる生活」。ダム建設を受け入れるのかどうか。漁協総代会の判断が注目される。

>最上小国川ダム建設、イエスかノーか 漁協があす総代会
山形新聞 2014年06月07日

県が計画を進めている「最上小国川ダム」の建設に反対する姿勢を示してきた小国川漁協が、8日、最上町で組合員の代表を集めて総代会を開き、ダムの建設を容認する方針を賛成多数で決めました。…

漁協によりますと、ダム建設の賛否について無記名で投票が行われた結果、57対46の賛成多数でダムの建設を容認する方針を決めました。

県は、漁協の理解を得たうえでダム本体の建設に着工したいとしていて、8日の決定で「最上小国川ダム」の計画は建設に向けて大きく前進することになりました。

小国川漁協がダム建設を容認 – NHK山形県のニュース 2014年6月8日

2014年6月8日
小国川漁協の総代会の結果を受けた声明

報道機関各位
最上小国川の清流を守る会

本日、小国川漁協の総代会において、「ダム建設やむなし」という理事会の提案への決議について採決がおこなわれ、賛成57 反対46という結果になりました。
 しかしながら、この議決によってダム着工できる等の法的根拠はありません。ダムを認める権限など、漁協にはありませんし、ダムの是非を水産業協同組合法に基づいて決めることはできません。又、ダムをつくることによって、漁業権を喪失するなど損害を受ける組合員の同意がなければ、水面上の工事の着工はできません。

 今般46人もの総代の方々が、ダムによらない治水を求めました。
この数は組合員の中にも数多くの方がダム反対であることを示しています。
漁業権や財産権をもつ権利者全員の同意かつ補償が満たせなければ、ダムの着工は法的に不可能であります。

 仮に漁協が水協法に基づいてダムに同意できるという説に基づいた場合でも、 2/3以上の賛成が必要とされる特別決議が必要です。今般は普通決議で、かつ賛同者が2/3に達しておらず、ダムに着工できることにはなりません。
 今後、補償交渉入りを県が提案してくると予想されますが、その際、権利者全員からの委任状を取得した上で補償契約を締結しなければ、ダムの着工はできません。
 よって、ダム本体着工までは数多くの手続きが必要であります。

我々は、今後も故沼沢組合長の遺志を継ぐ組合員の皆様とともに、ダムに拠らない「真の治水」を求め続けて参ります。

以上。 (最上小国川の清流を守る会 草島進一氏の発信から 2014年06月08日)

ダム建設は漁業権が関係する事業なので、過半数では漁協がダムを容認したとは言えません。…ダムの本体着工には本来、漁業権を有する組合員全員の同意が必要です。よって、総代だけでも46人、組合員全体だと相当数の反対意見があるはず。山形県は、その全員の同意を得なければならないわけですから、反対運動の正念場はまだ先と言えます。
(小国川ダム問題を継続的に取材している浦壮一郎さんの発信から 2014年06月08日)

小国川漁協(舟形町、高橋光明組合長)は8日、最上町の旧瀬見小で総代会を開き、県が示す流水型ダム(穴あきダム)による治水対策を受け入れる議案を賛成多数で可決した。同漁協は一貫して建設に反対してきたが今回、方針転換を決断した。漁協の同意を得たことで、県の建設計画は大きく前進する。

…出席者らによると「組合員が一致団結し(県が治水対策と併せて示す)内水面漁業振興策に取り組むべきだ」とする賛成意見のほか、反対の立場から「流域住民の安全、安心を守るならダムより護岸改修が先だ」との声も上がったという。

同漁協は今後、県とダム工事に伴う漁業権補償に関する協議を行う方針で、県が提示する補償案を再び総代会に提案する。定款では「漁業権に関する事項は『特別決議』として、総代の2分の1以上が出席し、その3分の2以上の多数による議決を必要とする」と規定しており、補償案可決には3分の2以上の賛成を得る必要がある。

…建設に反対する「最上小国川の清流を守る会」は同日、記者会見を開き、草島進一共同代表や熊本一規明治学院大教授らが「総代会の決議には法的拘束力はない」と主張。今後も反対運動を続ける意向を示した。
(漁協が最上小国川ダム受け入れ案可決 建設反対から方針転換 山形新聞 2014年06月08日

つまり、本来なら、「全員の同意→漁業権補償交渉→補償の配分」となるはずが、常套手段化してきた誤魔化しの手法では、「漁協の決議→なし崩しの漁業補償交渉→なし崩しの補償の配分=受け取った時点で事後的に全員の同意を取ったことになる」というわけだ。
まさのあつこさんブログ 晴れの日は楽しく、雨の日は静かに 2014年6月9日)

山形県が計画する最上小国川ダムに関し、小国川漁協(舟形町)は8日、最上町で総代会を開き、ダム建設を容認する議案を賛成多数で可決した。計画浮上以来、25年以上反対を貫いてきた漁協が姿勢を転換したことで、県は漁協と漁業補償の協議に入る。
(山形・小国川ダム建設容認 漁協総代会賛成多数で議案可決
 河北新報 2014年6月10日)

 総代会の冒頭、高橋光明組合長(64)は漁協の窮状を訴え、「ダムと(県の支援策を)引き換えにするのかと言われれば、心を鬼にしてでも『そうだ』と答えなければいけない」と、受け入れに理解を求めた。

 かつて1700人いた組合員は1000人を切り、アユ養殖施設も老朽化し、稚魚育成に支障が出ている。容認派からは「赤字決算が続く組合の将来を見据えるべきだ」との指摘が出た。
河北新報オンラインニュース 2014年6月10日)

最上小国川に漁業権を持つ小国川漁協は「ダムによらない治水」を求め、一貫してダム建設に反対してきた。その先頭に立っていた組合長が今年2月に自ら命を絶ち、事態は急展開する。漁協のトップ交代と県から漁業振興策が提示されたことがあり、漁協理事会は多数決(6対4)で方針転換を決定した。6月8日の総代会に、「ダム建設やむなし」とする理事会提案の決議案を諮ることにしたのである。注目の総代会は非公開で進められ、総代間での協議の後に無記名投票となった。結果はダム受け入れ決議案に賛成が57票、反対が46票。ダム容認が過半数を占めたが、むしろ、着目すべきは賛成が3分の2には届かなかった点にある。

今回の決議を受け、小国川漁協は県との間で漁業権補償などの交渉に臨むものと見られる。その後、県から提示された補償案などを改めて総代会に諮らねばならない。その場合、漁業権に関する「特別決議」となるため、議決には過半数ではなく3分の2以上の賛成が必要となる。つまり、過半数の賛成による今回の「普通決議」でダム建設が一気に進むことにはならないのである。おそらく、ダムによらない治水を求める組合員に対し、今まで以上の激しい切り崩し工作が展開されるものと思われる。 
相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記 2014年6月10日)

高橋組合長は「反対も多い。両方の意見を重くとらえなければいけない」と述べた。そのうえで「今までダムがない川で通してきたが、今度はダムのある川になる。..

県がダム工事に着手するためには、この日の決議に加え、漁業権に関する漁協の「特別決議」が必要になるとみられる。

 漁協の定款は「漁業権またはこれに関する物件の設定、得喪または変更」について、総代会の3分の2以上の賛成を求める「特別決議」が必要だと規定している。計画では、ダム本体部分は高さ41メートル、幅143メートル、奥行き33・6メートル。この区間で漁をすることは不可能なため、漁協幹部は「工事に際しては、改めて総代会を開催し、特別決議を取り付ける必要がある」と認める。…
(小国川漁協ダム容認 総代会で通常決議 読売新聞|2014年6月10日)

県が計画を進めている「最上小国川ダム」に反対する姿勢を示していた小国川漁協の幹部が10日、吉村知事と面会し、8日に開いた会合でダムの建設を容認する方針を決めたことを報告しました。

県が最上町赤倉地区の治水対策として計画を進めている「最上小国川ダム」をめぐっては、地元の小国川漁協が、8日に開いた総代会で建設に反対する姿勢から容認する方針に転じることを決めました。

これを受けて10日、小国川漁協の高橋光明組合長が吉村知事と県庁で面会し、「慎重に議論を行った結果、ダムによる治水対策を受け入れることを報告します」と述べ、文書を手渡しました。

これに対して吉村知事は、「流域住民の洪水に対する不安の解消につながると安どしている。治水対策と漁業振興に取り組んで行きたい」とこたえました。
(漁協 ダム容認の方針を報告 NHKニュース 2014年6月10日)

漁協の定款は「漁業権に関する事項は『特別決議』として、総代の2分の1以上が出席し、その3分の2以上の多数による議決を必要とする」と規定しており、漁協は今後、県が提示する補償案を再び総代会に提案する方針。ただ、漁協が8日の総代会での方針決定をもって「意思決定した」としたり、「ダム建設が漁業権に大きな影響がない」などと判断した場合は、特別決議を行わないケースもあり得るという。

(最上小国川ダム、容認決定を知事に報告 漁業権補償で「特別決議」示唆|山形新聞 2014年6月11日)

漁協の定款では、漁業権に関する事項は総代会などの特別案件として3分の2以上の議決が必要とされる。ただ県によると、同様の定款がある漁協の中には理事会などの決定で補償案に同意した例があるという。
 高橋組合長は報告で「絶対に川は濁らないという対策を提案してほしい」と求めた。吉村知事は「治水対策と内水面漁業振興を両立することが大事。(流域の)最上、舟形両町とも力を合わせて取り組まなければならない」と答えた。
(小国川ダム「特別決議が必要」補償同意案で組合長|河北新報|2014年6月11日)

最上小国川問題ですが、誤解されている方もたくさんいらっしゃるようなので、改めて6月8日におこなわれた総代会決議についてお伝えします。ダム容認かどうかの決議は、漁業補償が伴う決議になります。それ以前に、ダム容認については漁業を営む方々一人一人の漁業権(物権)に関わる問題になります。それをふまえて私達は6月8日以下の声明を発表しています。(最上小国川の清流を守る会 共同代表 草島進一氏の発信から 2014年06月18日)

日本においては、釣り人、カヌーイストには何の権利もない。開発に対抗しうる川をめぐる権利としては、漁業権があるだけだ。山形県の小国川ダムの問題などを見るにつけ、その漁業権もはなはだ頼りない。
ダム撤去と釣り人の権利について|フライの雑誌社|2014年4月30日)

地域の未来は地域住民が決める。ただし漁協は住民の総意を代表しない。

河川での職漁が行われていない現代日本において、法的に厚く保護されている内水面漁協は、その存在意義が根本から問われている。

ダム建設やみだりな河川開発への抑止力にならないのなら、内水面漁協はただの既得権益者団体だと言わざるを得ない。釣り人が漁協を応援する理由はなくなる。

ダムを欲しがる漁協ならいらない。

川を勝手に殺すなと言いたい。

(堀内正徳|『フライの雑誌』編集人 2014年6月10日)
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※ダムと漁業権の関係で勘違いされている方もいるようだけど、漁で生計を立てている素朴な存在としての漁師さんは、日本の川にはもういない。内水面漁協の性質は海の漁協とは異なる。内水面漁協は今さら新しい法律を作って多額の税金を注ぎ込む対象ではない。内水面漁業振興法とやらは、政治家と既得権者による利益誘導にすぎない。(堀内)

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