居眠り運転注意

お笑い芸人さんが高速道路で事故死された。テレビでふつうに見ていた人物が突如としてもう二度と見られなくなったという事実には、少なからず暗然とするものがある。年上ならまだサヨナラの順番ということで納得もいくが、彼はわたしより微妙に若いのでなおさらだ。

昨日わたしは秩父へ人工産卵場を造りに行った帰り(ほんとは釣り)の峠道で、何度かすうっと意識が途切れそうになった。ぅおっとっとっと、と頬っぺたをはたいて強制復活させ、道ばたに車をとめて外に出て、さらさら流れる入間川の暗い川面を見つめて深呼吸した。川の匂いがした。

◆人間誰しもいつかは必ずあの世行きになる。これだけは例外がない。なら、生きているうちに自分の好きなことを心おきなくやっておきたい。そうして「フライフィッシングをやってよかった、実に面白かった」と笑って死にたいものだ。

これは島崎憲司郎さんが書いた『水生昆虫アルバム』にある、よく知られた一節だ。この本がただの〈水生昆虫の写真集〉ではないことは、この一節を読んだだけでよく分かる。だから一人でも多くの方に『水生昆虫アルバム』を読んでほしいと常日頃から思っている。この本は読んだ人のこころに深く刺さって一生抜けない人生の杭になる。

『フライの雑誌』第100号にも寄稿してくれた島崎さんが、どれだけ〝好きなことを心おきなく〟やっておられるかを、今の立場にいるわたしは、ある程度までは知っていると思っている。それに比べたらわたしのやってる〝好きなこと〟なんて、とは思う。

でもまあそれはそれとしても、今はまだ少しだけ、わたしの人生の幕切れは避けたい。もう2年以上も出版が遅れている単行本の『バンブーロッド教書』を出すまでは、たとえ峠道で居眠りして谷底深くへ車ごと墜落して大爆発炎上しても、ぜいぜい言いながら無傷で這いのぼってくる。だから『バンブーロッド教書』を待ってくださっている皆さまはご安心ください。

ていうか、居眠り運転注意します。ごめんなさい。

「水生昆虫アルバム」より
「水生昆虫アルバム」より
島崎憲司郎著「新装版水生昆虫アルバム」
島崎憲司郎著「新装版水生昆虫アルバム」
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