新刊『朝日のあたる川 赤貧にっぽん釣りの旅二万三千キロ』発行直前! 編集裏日記(4)

『朝日のあたる川』の広報について

8月初旬にリリースする今度の新刊『朝日のあたる川』では、編集裏日記(3)に記したすべてのことはすでにやった。いま現在、フライの雑誌社ネットショップ経由でのご予約を数十冊もいただいていてありがたい。取次さんや釣具店さんからもすでにご予約がきている。

今回は特別な販売促進企画として、予約していただいた先着何名かの方へ、もれなく特製ノベルティをプレゼントすることにした。ノベルティを作るにはもちろんお金はかかるけれど、一万数千円のレベルだ。それで拡販になるなら御の字だ。意外にそういうとこ計算高いから我が社。

さっそく『朝日のあたる川』著者の真柄慎一氏へ「ノベルティ作るからね」と報告したら、「そうっすか。ありがとうんす」。と言っていた。そのくせしばらくして会ったとき、「あのう、聞こうと思ってたんすけど」「なあに」「ノベルティってなんすか。」だって。こんなところに著者の人となりがでる。やっぱりまがらひとがらか。そういう人物だからこそ損得勘定抜きにしてフライの雑誌社から単行本を出したかった。

Hondaさん、取り上げてください

『朝日のあたる川』は、無職でホームレスだがなぜか彼女はいる29歳の崖っぷち青年が、オンボロの軽ワゴンに暮らしながら日本縦断釣りの旅へ出る、抱腹絶倒の旅日記である。その軽自動車はホンダ車で、写真は大きく掲載されているものの、作中には車種名はいっこも出てこない。でもいましろたかし氏に描きおろしてもらったカバーイラストには、ホンダの「H」マークが大きく描かれている。

要領がいい版元なら事前に車種名もしっかり明記して、それがいかにすばらしい車であるかを著者に作中で語ってもらって、その代わりにメーカーの応援をもらって、ということを仕込んでおくのだろうが、幸か不幸かフライの雑誌社ではそういうことをやったことがない。かなしいことに連載時にもまったく頭が働かなかった。今回のイラストを見て「これホンダ車だったんだ」と気づいたくらいである。

ここ数年、レクリエーションとしての釣りへ力を入れているホンダさんは、今年に入ってから「Honda釣り倶楽部」という釣り情報サイトを立ち上げた。「Honda釣り倶楽部」は大企業がやっている釣りサイトとしては目を見張る充実度であるのでここでご紹介したい。

先日フライの雑誌社では、「Honda釣り倶楽部」に〝我が社では、若者がホンダ車に乗って日本縦断釣りの旅に出る新刊を出します。ぜひ貴サイトでとりあげてください〟という依頼をお送り申し上げた。〝釣りで遊ぶ。Hondaと遊ぶ。〟がサイトのコンセプトなら『朝日のあたる川』はまさにぴったりの本だと思うんですよ。

社有車はホンダ車である

山形県最上川にて社有車

「Honda釣り倶楽部」のサイト運営には神保町のつり人社さんが深く関っている様子だ。神保町が関っているとなると、同じ釣り系の版元と見なしているだろうフライの雑誌社の新刊を、あえて取り上げてくださる可能性は限りなく少ないかもしれない。でもやらないよりやった方がいいからね、ととりあえず前向きである。

昨日は本田技研工業(株)の広報部宛に、『朝日のあたる川』本文のページ見本をプリントして、速達メール便で送った。お願いの手紙を添えて私の名刺を入れて、封筒の表面には「企画書在中」と大書しておいた。ここまでやって無視されるならしかたない。私の考え方が間違っているんだろう。

じつはフライの雑誌社の社有車はホンダのエアウェイブ(赤)である。4年目で8万キロになる。故障はないし燃費は高速でリッター20kmだしバッゲージスペースは広くて天窓の開放感もいい。街乗りでも釣り車としても相当気に入っている。

でも今回ホンダさんが『朝日のあたる川』に反応してくれなかったら、次に買い替える時は考える。このエアウェイブを買ったディーラーの営業さんも「すてきな本ですね。反応するメーカーであって欲しいです。」と言っていた。お金くださいって言ってるわけじゃあないですからね。

一番大事なのは読者のクチコミ

本の広報とは、皆様に存在を知ってもらって本を手にとってもらって、話題にしてくださいとお願いするということだ。その究極にして唯一の目標へ向けて、手を替え品を替えてあれこれとアプローチする。お金がないならないなりに、地道にやれることをやるだけである。

フライの雑誌社のこれまでのベストセラー本というと、島崎憲司郎氏の『水生昆虫アルバム』と水口憲哉氏の『魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか』が双璧だ。『魔魚狩り』のときはふだん『フライの雑誌』を読まないようなバス釣り師の人々が、あの悪名高い特定外来生物法と小池百合子への反感もあって、てんでにネット上で『魔魚狩り』を話題にしてくれて、一気に知名度が高まった。

『水生昆虫アルバム』のときは、ネットはまだ普及していなかった。「すごい本が出た」という驚きが『フライの雑誌』でまず噴出し、フライショップとフライフィッシャーマンのクチコミで炎上し、そのまま遼原の火のごとく広がっていった。高価な本だというのに「仕込み」も「仕掛け」も「話題づくり」も必要なかった。もともと本が持っていた力が力を呼んで勝手にサークルが拡大した例だ。あっという間に増刷を重ね、初版から10年を経て内容はそのまま装いを新たに、『新装版 水生昆虫アルバム』となった。今では現代の古典としての評価が確固として定まっている。100年後も残る本になるだろう。

時代がどれだけ変わろうと、一番大事なのは読者のクチコミであるのは間違いない。

だから皆さん、今度の新刊の赤貧本『朝日のあたる川 赤貧にっぽん釣りの旅二万三千キロ』も、とにかく手にとって中身を読んでアレコレ言っていただけませんか。もしそうしていただけるならば、たくさんは売れなくてもじつは版元としてはそれだけでじゅうぶんに満足だったりします。

なにしろ小社は本を手にとってもらうためならばいっそロハで全国民へ送りつけてやろうかと、時々まじめに白目を黄色くしているような少々イカレた版元です。

どうぞよろしくお願いします。

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【後日談】

本田技研工業(株)広報部御中で送った企画書には、なんの反応もありませんでした。

新刊「朝日のあたる川」 税込み1,200円