(環境省11.16公表)阿武隈川アオミドロから740ベクレル/kg、猪苗代湖アオミドロから500ベクレル/kgと、南相馬のイワナ11400ベクレル/kgとの関係とは。

環境省「環境省水生生物放射性物質モニタリング調査結果」の第2回春期水生生物調査が17日公表。「環境省水生生物放射性物質調査は、栄養段階を通して河川や湖沼でセシウムが魚の間でどのように移行しているかを検討できる、初めての調査といえる」(「淡水魚の放射能」100頁)。

第1回目の調査は半年前に行われている。前回の結果はこちら「阿武隈川の水生昆虫からセシウム340ベクレル/kg、真野川の水生昆虫から670ベクレル/kg(環境省発表7.2)」を参照。

環境省では、モニタリング調整会議において決定された総合モニタリング計画に基づき、継続的に水環境(公共用水域(河川、湖沼・水源地、沿岸)等)の水質・底質について放射性物質モニタリングを実施しているところです。今般、この一環として福島県内を中心に実施していた、水生生物放射性物質モニタリング(春期調査:(採取日)平成24年6月3日~7 月11日)について、測定結果を取りまとめましたので、公表します。(PDF表)

阿武隈川(原瀬川、摺上川)
藻類: アオミドロ 740ベクレル/kg、550ベクレル/kg
水生昆虫: ヤゴ類 52ベクレル/kg
甲殻類: ミナミヌマエビ 181ベクレル/kg
魚類: アブラハヤ 73べクレル/kg、ドジョウ 113べクレル/kg、アメリカナマズ 600べクレル/kg、コクチバス 490べクレル/kg、ニゴイ 740べクレル/kg、ギンブナ 102べクレル/kg、ウグイ 340べクレル/kg、天然遡上アユ 147べクレル/kg
両生類: アカハライモリ 181ベクレル/kg、カエル類(オタマジャクシ) 320ベクレル/kg、ウシガエル 370ベクレル/kg、ツチガエル 280ベクレル/kg

真野川(真野ダム)
粗粒状有機物: 枯葉等 3200ベクレル/kg(※半年前は800ベクレル/kgだった
藻類: アオミドロ  1870ベクレル/kg
水生昆虫: カゲロウ、トビケラ、ヤゴ類 510ベクレル/kg
魚類: コクチバス 4400べクレル/kg、ナマズ 3000べクレル/kg、ギンブナ 1250べクレル/kg、ニジマス 280べクレル/kg

真野川
粗粒状有機物: 枯葉等 1410ベクレル/kg
藻類: アオミドロ 260ベクレル/kg
水生昆虫: カゲロウ、ヤゴ類、トビケラ、ガガンボ 297ベクレル/kg
甲殻類: ミナミヌマエビ 223ベクレル/kg
貝類: カワニナ 182ベクレル/kg
魚類: ヨシノボリ 970ベクレル/kg、ギンブナ 470ベクレル/kg、ウグイ 226ベクレル/kg、天然遡上アユ 202ベクレル/kg

新田川(南相馬市)
魚類: イワナ 11400ベクレル/kg、ウグイ 620べクレル/kg、オイカワ 440べクレル/kg、天然遡上アユ 740べクレル/kg、ヨシノボリ 460べクレル/kg

猪苗代湖(北岸)
藻類: アオミドロ 500ベクレル/kg
魚類: ナマズ 95ベクレル/kg、イワナ 380ベクレル/kg、サクラマス 350ベクレル/kg、コクチバス 170ベクレル/kg、ギンブナ 77ベクレル/kg、ウグイ 149ベクレル/kg

秋元湖
粗粒状有機物: 枯葉等 250ベクレル/kg
甲殻類: ウチダザリガニ 183ベクレル/kg
魚類: コクチバス 410ベクレル/kg、イワナ 470ベクレル/kg、ヤマメ 153ベクレル/kg、コイ 88ベクレル/kg、ニゴイ 178ベクレル/kg、ギンブナ 186ベクレル/kg、ウグイ 300ベクレル/kg
両生類: ヤマアカガエル(オタマジャクシ) 540ベクレル/kg

今回、初めて内水面の藻類が測られた。藻類の汚染が500〜1870ベクレル/kgと高濃度なのに注目。

汚染された藻類を水生昆虫が食べ、水生昆虫を魚が食べる。そのセシウムの移行・濃縮の結果として、新田川のイワナ 11,400ベクレル/kgに至っている。今年3月の調査では同じく新田川のヤマメから18700ベクレル/kgが出ている。(「淡水魚の放射能汚染まとめ」)

『淡水魚の放射能  川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』(水口憲哉)には、以下のような記述がある。『淡水魚の放射能』は、世界と福島第一原発事故後の日本の、川と湖の水生生物の放射能汚染を網羅的に論考した今のところ唯一のテキストである。

福島から群馬、栃木、茨城にかけての淡水魚の放射能汚染がこれからどうなるかについては、これまで見て来たヨーロッパにおけるチェルノブイリ原発事故の影響からある程度予測できる。50年は無理にして20年後については。 72頁

..高汚染地域の川は2011年から2012年の2、3月にかけて、再び増加し始めるきざしが見られる。ただこの2河川の2011年5月と7月の濃度は真野川などの濃度を考えれば、10万ベクレルを超えていた可能性がある。 96頁

付着藻類は2月にピークとなり、水生昆虫が主である底生動物は3、4月がピークとなる。春先に水生昆虫が付着藻類を食べて繁殖したものを、5月に入るとアユやウグイなど川の魚が付着藻類や水生昆虫を摂食し続けるので、藻類も昆虫も増えては食われを繰り返し… 97頁

結局、まみれる暮らしの魚から、底質に依存する魚(アユ、ウグイ、ヨシノボリ、ギンブナなど)へと、淡水魚へのセシウム蓄積の中心は移行してゆき、魚食性の魚(バス、アメリカナマズなど)で増加中ということである 101頁

17日の環境省発表を受けて「イワナ11400ベクレル」はセンセーショナルに報道されている。一方で「アオミドロ740ベクレル」はほとんど無視されている。食物連鎖の観点からはアオミドロの汚染にこそ注目するべきだろう。

福島第一原発からは、今も毎日2億4000万べクレルの放射性物質が出ているという。その放出が止まらない限り、食物連鎖の下位にある藻類の汚染は濃くなり続ける。その結果として、水生昆虫の汚染も、魚の汚染も、人間の被ばくも進む。

※現在の放出よりも昨年3月の爆発による放出の影響の方が大きいのでは、という指摘をいただいた。事故直後の放射能雲の移動による、東日本の山と川と生物の汚染は『淡水魚の放射能』でくわしく論考しています。

選挙らしいが、原発再稼動しますと言うのならば、まず今なお噴き出しているアレをどうにかしてから言ってほしい。

環境省平成24年度水生生物放射性物質モニタリング調査 調査地点図
選ぶべき未来は森と川と魚たちが教えてくれる。─『淡水魚の放射能 川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』(水口憲哉=著)