とある釣り以外の媒体さんから、「フライフィッシングの入門者向けの書籍や雑誌でおすすめはなんですか。」という相談を受けた。じつはこれ、とてもよくある質問で、その度に悩ましい思いをする。
というのもいまだかつて、日本語で書かれたフライフィッシングの入門書で、これぞ!という本に出会ったことがない。背中に苔の生えたベテランフライマン諸氏からは、「何言ってるのお前、『フライフィッシング教書』があるだろ。」くらいの声は聞こえてきそうだが、さすがに30年も前の本で情報が古い。それに、少年時代にあの本を鵜呑みにしてあれこれと回り道した者の一人として、これからの人には私と同じ思いをしてほしくないような、してほしいような(微妙)。
フライフィッシングの入門書は今でも多くの版元から毎年出版されているし、フライの専門誌は、毎年春になると入門特集を組む。が、それらはたいてい、作り込みが甘かったり、モノを売りたい業界側のバイアスがかかっていたりして、これ読めばいいよ、と素直に薦められないのが私の場合の正直なところだ。
フライマンの少子高齢化に恐れをなした釣り業界数社が最近になって、webサイトを使いタイイングや釣り方を動画で紹介している。たしかにタイイングは動画が分かりやすい。しかしどこかの池で浮き釣りしてほら釣れた、とやられても、フライフィッシングの奥深い魅力を伝えるにはなかなか厳しいのではなかろうか(おそらく作り手側がいちばん自覚していると思う)。入門者に「こんなもんか。」と思われたらアウトである。もちろん何もやらないよりはやった方がいい。がんばってください!
面白いのは個人で作っているwebサイトの「フライフィッシング入門」ページだ。フライマンという人種は、他人様に自分の趣味を必要以上に熱く語りたがる傾向があるので、多くの個人サイトで「フライ入門」を取り上げている。偏屈フライマンっぽく語り手の趣味が異様に偏っていたり、明らかに誤りの情報を掲載している場合もある。ただ、個人は商売抜き、効率無視で作り込むゆえか、中にはものすごくレベルが高いサイトがある。
極めつけはこれ。東京の養沢毛鉤専用釣場が運営している「WEB版養沢フライフィッシング・スクール」だ。「フライの雑誌」第77号で紹介したリアル・スクールは去年で終了したということで、代わりに「独学用のWEBスクール」を作ったのだそうだ。一度ご覧いただければ分かるが、まさにかゆいところに手が届く編集がなされている。なにより妙な商売っ気がまったくないのがいい。純粋にフライフィッシングの楽しさと奥深さを伝えたいのだなと感じる。
問い合わせを受けた媒体さんに「WEB版養沢フライフィッシング・スクール」のURLを教えてあげたら、ずいぶん喜ばれた。本当を言うと、こんな高いレベルの情報を無料で発信されてしまうのは、既存の出版業者にとっては死活問題だ。昔だったら情報発信は業者の独占事業だったのに、皆さん大変だなあと思う。というと他人事みたいなので一応言っておくと、小社の場合はそもそもニッチでマニアックでドインディーなのではじめからおミソということで。いばれないけど。