本を捨てる。

仕事場の移転に伴い、荷物を整理し始めた。ここ数年来、手を触れていなかった禁断の本棚が、薄暗い物置部屋のなかでエヴァのゼーレのように屹立している。できれば放置したまま人生を閉じたかった。

モノリスに長年詰め込まれて埃にまみれた文庫本とマンガ、くさった単行本の山が無言の脅迫をかけてくる。「どうしてくれるんだ、おれたちを」。じつは私は本当に滅多に本と雑誌を捨てないヒトなのだが、今回はきっと大量に捨ててやろうと心に決めて、本棚の前に立っている。本たちはそれを勘づいているのだ。

意を決してとりかかる。読んだんだか読んでいないんだか分からない本の数々。背を見ても内容をさっぱり思い出せない。以前だったら我が身の貧弱な記憶力を責めただろうが、もう40歳をすぎたので「そんな覚えていられないような、つまらない本のほうが悪い」と開き直ってちっとも悔しくない。年を食うのもいいことはある。

捨てる本、捨てられない本を仕分けていく。モラヴィアの文庫がぜんぶ揃っているのに驚愕。こんなの読んでたんだ。当然ポイ。「ホットロード」紡木たく! 保管。山田風太郎はもちろん保管。おおた慶文も保管。大島弓子を絶版本含めて全巻集めきったのは20代の私の大仕事だった。阿佐田哲也、色川武大もぜんぶある。むかし好きだった椎名誠はポイ。椎名さんは「ナマコのからえばり」というタイトルの本を最近上梓したが、「ただのナマコと思うなよ。シイ(ナマコ)トの分身でもあるナマコ」という宣伝文を見た時はなんだか哀れになった。

竹中労原作のかわぐちかいじ『黒旗水滸伝』も出てきた。いまアマゾンで確認したら5000円がついていたし、かわぐちかいじはどうでもいいが、竹中労は捨てられない。つげ忠男の単行本ぜんぶ、これもマスト。『京成サブ』とかかっこいいね。大江健三郎が出てきてしまった。古いな。ポイ。安吾、中上健次、牧野信一、福永武彦、堀辰雄が出て来た。保管。文学好きみたいじゃないか俺。神田で見つけたサンリオ文庫の「ナボコフの1ダース」はつまらなくてがっかりしたけど高価だっただけに捨てられない。富士見ロマン文庫系はもちろん保管。『ペピの体験』とか『鏡の国のアリス』とかとてもよかった。伝説のエロ小説『ファーニィ・ヒル』は富士見ロマンでなく角川文庫版で読んだ。

丸一日かかって、本棚2本の整理が終わった。ポイする本どもを紐でキュッと縛りながら、何年たっても「ポイ」されないような本をフライの雑誌社は作ろう、と思った。

9月新刊、釣りをとおした環境教育『宇奈月小学校フライ教室日記 先生、釣りに行きませんか。』