来春公開の映画『釣りキチ三平』に関する取材で、神保町のつり人社さんへ伺った。三平世代ド真ん中の私にとって、映画『釣りキチ三平』には過剰な思い入れがある。なにしろ私は、単行本第51巻「ニンフの誘惑」篇の発売日に近所の書店へ自転車で買いに行き、その帰り道に新聞配達のスーパーカブと正面衝突して救急車で運ばれ、一時意識不明になったという輝かしい過去をもっている男だ。病院で脳波を測ったら異常な数値がでたが、治しようがないと言われた(だったら測んないで)。いま私の記憶力がわるいのはそのときの後遺症である。
つり人社の鈴木康友社長は「フィッシングスーパーバイザー」という世にも不思議な肩書きで、今回の映画制作に深く関わっている。見せてもらった台本の前の方の頁に、50級くらいで名前が大書してあった。それはマガジン連載中の『釣りキチ三平』作中に、当時若手記者だった鈴木氏の「鈴木康友!」と書いた名刺が、でかでかと掲載されたときの衝撃にも似て(本当は!はない)、正直すごくうらやましかった。気になる方は単行本第61巻「呪い浮木」篇参照。約束の1時間をはるかにオーバーしての取材でご迷惑をかけてしまったが、原作者との長いおつきあいもある鈴木氏の映画制作現場での数々の秘話は、ひじょうに面白かった。
映画の公式サイトでもすでに公開されているネタで、どうしても納得いかない点がひとつある。三平に実の姉、愛子姉ちゃんがいるという原作を無視した設定だ。言うまでもなく愛子姉ちゃんは単行本第4巻「三日月湖の野鯉」篇で、「ンまあ」という色っぽい名台詞とともに登場した、姉さんかぶりと和服の似合う最重要キャラクターである。このさい言っておくと、思春期の私はユリッペを同級生、愛子姉ちゃんを大人の女としてTPOに応じて使い分けていた。愛子姉ちゃんは後に魚紳さんからプロポーズされるわけだが「魚紳さんでもそれは許せん」と腹立たしかった。私も膝枕してほしかったのに。
原作とは決定的に異なるそのような設定を、映画版ではいったいどのように料理したのか。これから公開に向けてたくさんの情報や映像がリリースされてくるだろう。不景気風が強まるばかりの世の中に、明るく楽しい前向きな三平くん気分が盛り上がってくることは請け合いだ。映画にはなんとフライフィッシング・シーンがふんだんに登場するとのこと。こんなマイナーな釣りが世間様にとりあげられるなんて、吉永小百合の十和田湖以来である。
『フライの雑誌』は、映画公開直前に発売となる次号第84号で、他のどこの媒体もやらない(やれない)切り口での『三平』記事を掲載します。三平世代(アニメも可)の釣り師はこんどの映画『釣りキチ三平』と『フライの雑誌』は必見です。