富山に風が吹いている

映画『おくりびと』のアカデミー賞受賞に関連して、〝映画の〈原点〉となった『納棺夫日記』(文春文庫)が、◯万部増刷〟と、報道されている。しかしこれは正しくない。『納棺夫日記』はもともと、富山県富山市の地方出版社である桂書房さんが、1993年に出版した単行本だ。翌年の地方出版文化功労賞を受賞した作品でもある。毎日新聞がこのことを正しく伝えている。いい記事だ。

桂書坊さんは、優れた出版活動をしている出版社を表彰する「梓会出版文化賞」の今年の特別賞も受賞している。このことも毎日新聞の地方版が先に伝えている。桂書房さんの取次会社で小社の本も扱ってくださっている、(株)地方・小出版流通センターさんも、先月のリリースでそのことを讃えていた。文春文庫はトンビであるとはだれも言っていない。

『おくりびと』の監督で、次回作が『釣りキチ三平』の滝田洋二郎監督は富山県出身である。フライの雑誌社的には富山県といえばもちろん、『宇奈月小学校フライ教室日記 先生、釣りに行きませんか。』である。昨年、ユネスコ本部で個展を開いて話題になった画家の戸出喜信氏は、富山県のしかも宇奈月町出身だ。ひょっとして富山に風が吹いているのかと思うが、かんたんに舞い上がらないのが富山人でもある。

私がこれまで出会った富山県人は気持ちのいい人ばかりだった。以前住んでいたアパートの若い美大生の隣人は、実家から送ってもらった名酒『立山』を私の部屋に持参してついでくれながら、春から京都へ建築の勉強をしに行くんです、だからここも引っ越します、と言っていた。富山の人は「とやま」を語尾上がりに発音するのだと彼とのつきあいで知った。きっと彼も元気だろう。