歌い手はその声を聴いた瞬間にその人と気づかせる声を持っていてほしい。たとえ覆面をしていても歌いだしたとたんに誰だか分かる歌い手がほんものだ。でもそういう歌い手は世界を探したってあんまりいやしない。まして自分の言葉でメッセージを送れる歌い手なんていやしない。
いつかきっとみんな仲良くなれる。いつかきっとそんな世界がくるさ。差別も偏見も国境もなくなるさ。食料不足も核査察も工作船もテポドンもなくなるさ。
「お〜い、キムぅ。」
「なんだい。」
自分は安全地帯に立ったままご高説だけのたまうやつらが多い世の中で、ほんものの歌い手がひとりいなくなった。今日はドカドカうるさい大音量を轟かせて『フライの雑誌』の次号を校正する。