ARTISTブランドで知られるマッキーズは、日本のカスタム・フライロッド・メーカーの老舗である。店主の宮坂雅木さんには以前からたびたび誌面に登場していただいている。『小説家の開高さん』(渡辺裕一著)に〈銀座裏でフライフィッシングの竿をつくっているM氏〉として登場し、〈洒脱で粋、野暮の域にははみ出さない。〉と描かれているその人である。
『フライの雑誌』第85号の連載「竿をつくるしごと」では、長年フライロッドのデザインに関ってきた立場から、〝ロッド・ソムリエの提案〟を語ってくださった。あれは宮坂節が炸裂していて取材しながらも面白かった。読者からの反響も大きかった。
そのマッキーズがこの4月、旧店舗の改築に伴い、引っ越しをした。といっても300mほど東へ平行移動して新しいビルの一階に移っただけ。
この日、わたしははじめて新店舗へおじゃました。真新しい店内には以前からの什器がそのままセットされていて、宮坂さん手描きの見慣れたイラストも無造作に壁へ貼ってある。店舗の雰囲気は以前のままだ。
それでかえって、はじめて以前の店舗におじゃました約20年前と、当時の自分を思い出した。あの頃は若かったせいで、世界で自分がいちばん釣りがうまくて、いちばん釣りを楽しんでいると思っていた。とんでもない大先輩の宮坂さんへもかなり失礼なことを言ったりやらかしたりした気がする。うひゃあ、である。
宮坂さんは帰ってきたばかりの北海道の釣りの様子などを、年少の私にも、いつもの上品な「です・ます」調で、じつに楽しげに教えてくださった。で、そんな会話の流れの中で、〝こんど新しいフライロッドを作るんですよ…〟と、ポロッとおっしゃった。
ご当人はついポロッとだったかもしれないが、いまわたしは釣り雑誌の編集者なので、そんなおいしい話題は見逃せない。〝まだ開発している途中なんですけどね〟とおっしゃるのにしつこく食い下がり、あれこれ聞き出してきた。
トピックスとしては、大きく2つある。まだ言えないけど。
マッキーズの新しいフライロッドは、この9月に発表の予定だ。こころがこもったフライロッドはただの商品ではないことを、過去1万本を超えるフライロッドを世に送り出してきたマッキーズが教えてくれる。
発表に先駆けて取材し、『フライの雑誌』の次号94号でご紹介します。