そろそろヤマメ、アマゴ、イワナの産卵の季節だ。
10月15日(土)、トラウト・フォーラムの方々といっしょに、秩父荒川水系の某川へ渓流魚の人工産卵場をつくりに出かけた。人工産卵場の造成指導は、秩父の内田洋さん(別名:人間重機)。内田さんはたったひとりで秩父に産卵場をつくりはじめて7年になる。〈『フライの雑誌』第71号(品切れ)にも記事〉
渓流魚の人工産卵場の技術を日本で初めて確立したのは、独法水産総合研究センターの中村智幸氏だ。『フライの雑誌』に連載し、単行本『イワナをもっと増やしたい!』にまとめて上梓した。
近年、渓流魚の人工産卵場作りは全国各地で大流行だ。しかし本来、人工産卵場なぞ作らなくても、勝手に魚が産卵できる自然環境が守られている状態がいちばんいいのは、言うまでもない。そこの本筋がひょっとしたら忘れられ気味ではないだろうか。
人工産卵場の情報を世の中へ提案するお手伝いをさせていただいた版元として、このところそんな疑問をずっと感じている。『イワナをもっと増やしたい!』の中でも、「人工産卵場はあくまで次善の策です」と繰り返し強調されていることをもう一度言っておきたい。
先月の長野のイベントでお会いしたおりに、中村智幸さんへ直接、最近の〈人工産卵場ブーム〉への感想を聞いてみた。すると中村さんは、「人工産卵場に関する情報提供の広がりは、もうこれくらいでいいと思います」とうなづいた。「渓流魚を増やすには色々な方法があります。さらに有効なあたらしい方法も研究されています。これからはそういった他のアプローチも紹介して行きたい」とのことだった。追々、『フライの雑誌』誌上で紹介させていただきたい。
とはいえ、これまたなんども言っているように、渓流魚の人工産卵場作りは、はっきり言ってすごく楽しい。川いじりそのものも楽しいし、仕事を終えた後の仲間との団らんも楽しい。参加して楽しい活動だからこそ、各地で多くの方へひろく受け入れられたのはまちがいない。
15日は、前夜から大雨が降っていたため、川に入っての造成作業はきびしいと思われた。私もふくめたいつものメンバーは予定通りに現地へ集まり、河原でバーベキューや水生昆虫採集などして、楽しく遊んだ。午後から雨は上がったが、けっきょく造成作業はなにもせず。仕事してないのに、団らんだけしてしまった。
翌日、地元の内田さんだけがたったひとりで奥地の沢へ入って、例年とおなじように、造成作業を行った(しかも三カ所も!)。産卵に適した場所が少ないこの沢では、内田さんが人工産卵場をつくってあげるとすぐに、大きなヤマメのペアがやってきて産卵行動を始めたという。内田さんが撮影したヤマメのペアリングの映像を下に紹介する。癒されてください。
人工産卵場の一角に、木の枝や岩で親魚の隠れ場所をつくってあげるのは、経験と観察に基づく内田さんのアイデア。中村氏も絶賛していた。イワナにはとくに有効だ。
渓流魚の産卵は、その川の紅葉とだいたい同じ時季に行われる。秩父の川の下流域は紅葉には少し早かった。山にはまだ夏が残っていた。