『フライの雑誌』次号は広告が増えました。

読み捨てられる雑誌のように、私のページがめくれるたびに、と甘い鼻声で歌ったのは16歳の伊代ちゃんだった。ふつう、商業雑誌は広告で採算をとっている。実際に読者に買ってもらえる「実売」で成り立っている商業誌はほんとうに数少ない。というか、広告収入を目当てに雑誌をつくるのが当たり前だ。原発事故までは東電の広告をバンバン入れて潤っていた週刊誌が、今じゃ手のひら返しで東電をバンバン叩いているのは分かりやすい。あんなに払ってた広告費返してくれませんかと東電さんに言われそうで他人事ながら心配です。

『フライの雑誌』の場合は20年くらいまでのルアー・フライフィッシングブームのころは、今から思うと信じられないくらいに広告が入っていた。当時はどこの釣り雑誌もすごかった。今もまだある老舗のバス釣り月刊誌なんて、億の単位で広告費収入をかせいでいたとのこと。たしかにあの頃のあの雑誌は電話帳よりも厚かった。当時は釣りに限らずどの雑誌も隆盛を極めていた。そんな世の中にくらべればうちの「信じられない量の広告」なんてアリさんのため息くらいのものです。

栄枯盛衰、時代はめぐる。広告媒体としての雑誌の存在感はこの20年ですっかり変わった。マス向けの広告媒体としての意味は雑誌にはもうないし、これからまた復活することはないだろう。ていうか、マス広告って概念自体がすでに死語ですし。薄い10万人にアピールして1000人に立ち止まってもらうのを期待するよりも、濃ゆい500人にご案内して500人全員にふかく愛してもらうほうがずっと効率いいし、サスティナブルだし、みんなハッピーになれるんじゃないかなあ、なんて辺境の編集者はひとり言をつぶやいてみる。

うちの場合は出版物の企画も同じで、きわめてニッチなそのジャンルに興味のある方全員が、どうしても手にとってみたくなるような単行本をつくるのが基本姿勢だ。版を重ねている『魔魚狩り』、『水生昆虫アルバム』、『イワナをもっと増やしたい!』などはその好例。読みつがれて愛されて後世へ長年残るのはそういう本だ。一点に染み入れば普遍となる。

さて、もともとニッチな『フライの雑誌』は20年前の信じられない状況の方がイレギュラーなのであって、落ちそうで落ちない低空飛行にかけては他誌の追随を受けない自信がある。過去の栄華を酒のつまみに持ち出して「あの頃はよかったなあ」と遠い目をして自慢話するうらぶれた情けない親父がしばしばいるけれど、あれはなんか楽しいのかね。いい思いしたことがないこっちにはさっぱりわからない。永遠のロストジェネレーションと呼んでください。40すぎの中年だけど。

さて、『フライの雑誌』次号はなんと、広告が増えました。こんな時代にこんな雑誌へ広告を出してくれるということは、うちの編集のあり方を気に入ってくれているということだと、まず理解してしまう。さらに、もともとパブリシティ広告をいっさいやったことがないおカタい『フライの雑誌』ではあるけれど、次号に広告を出してくれている広告主さんの顔は、編集人兼広告担当であるわたしにはぜんぶはっきり見えている。営業的なおたいこ持ちをする必要が一切ない信頼できるお相手ばかりだ。

はやい話、『フライの雑誌』に広告を出してくれるのは、仕事抜きで個人的にも楽しくお話しできるお相手だけということかもしれない。こんな時代に、読者の皆さんとこういうオトナの広告主の皆さんにも支えられて雑誌がつづいていることはまったく希有なことだし、幸せだなあと思うわけです。

『フライの雑誌』最新第96号掲載の広告をひと足先に公開します。こちらが、世界で一番オタクな釣り雑誌を応援してくださっている珍しい皆さんです。私は個人的にすべてのお相手とおつきあいがありますが、お世辞抜きに気持ちのいい方ばかりです。(編集部堀内)

フライショップ アンクルサム(群馬県安中市)
シーズロッド(カスタムバンブーロッド)(東京都新宿区)
フライフィッシングショップなごみ(神奈川県横浜市)
ヴィラせせらぎ/やまびこ荘(群馬県上野村神流川)
ナイチンゲーロ(青春ホラー映画)
The Whitefishpress(出版:USA)
FLY イナガキ(愛知県瀬戸市)

FLYイナガキ