新刊『文豪たちの釣旅』(大岡玲)より抜粋「幸田露伴」

ただもう、切なくなったのだ。たかが遊びの釣りが、生きることと痛切に交錯する時に放つ閃光。この世のすべてが、もろくはかない均衡の上に成り立っているからこそ、釣りでさえ時に哀切きわまりないものに変じる。明日をもしれぬ身の上の私たちにできるのは、とりあえずの幸せの中で笑ってみることだけ、なのかもしれない。

新刊『文豪たちの釣旅』大岡玲:著

幸田露伴〈なんちゃって文豪、鱸釣りに行く〉より 抜粋