DVD『みんなのFLY』を見た。
〝フライがもっと身近になる〟というコピーそのままに、全篇ひじょうにお手軽でお気軽なフライフィッシング入門DVDである。
実際の釣りシーン(〝ジッチョウ〟なんて妙な単語は口が裂けてもおれは使わないゾ)は、琵琶湖でのボートのブラックバス釣りと、街なかの川のオイカワ釣り、そして止水のブラックバス釣り。そこにキャスティング解説とタックル解説動画がついてくる。
関西地区の制作ということで、登場人物の一人ボケ突っ込み、撮影者(ディレクター?)とのかけあい、ひつこい関西弁字幕など満載だった。でもそういったいわゆる関西ノリというのかな、がわたしにはちっとも気にならなかった。わたしはこのDVDを近所の小学生と一緒にポテチを食べながら寝っころがって見たのだが、随所でゲラゲラとふつうに笑かされた。じつはふつうに笑える釣りのDVDはとてもめずらしい。
世の中の釣り動画には、必要以上にキメキメで出演者を演出してみせたり、切れ味するどい若手がやたらとややこしい技術解説をかましてみたり、あるいは2線級の女子タレントを使ってバラエティ風味に走る作品が、いまだに多い。そんな人間が出てくるだけで恥ずかしくて見ているのがつらい。恥ずかしくないという当たり前のことが大事なのだ。
『みんなのFLY』に出てくるのは、個人的にも面識がないから正直に言ってしまうと、ごくふつーの中年太りのオッサン二人である。ルックスはもちろんぜんぜんカッコ良くない。(同類の釣りおやじとしてホッとする次第です)
申し訳ないけど、二人とも映像を見る限り、それほどフライフィッシングが上手ではない。ミスキャストは多いし、バンバン合わせそこねてるし、オイカワ釣りの指南をしている「師匠」なんて、〝じつはわたし今回がオイカワ釣り初めてなんですわ〟と自白している始末だ。人間味にあふれすぎでしょ。ともあれ上手すぎない釣り師は入門者的には好ましく、これなら自分にもできそうだと感じる。このあたりはフライをもっと身近にしたいというDVD制作者の狙い通りなのかもしれない。
気になる音楽について、最近の釣りDVDでは妙なジャズやブルースみたいのがBGMに使われていることがある。最初の頃はかっこいいかなとも思ったけど、ああいうのもう飽きた。水面を映したまましばしの無音の後、ヒットに合わせてジャラーン!とギターをかき鳴らされたら赤面だ。釣り動画の主役はあくまで画面を見ている視聴者さんだから、出演者の選択や演出と同様、BGMも恥ずかしくないのが大事です。『みんなのFLY』のBGMはとりあえず邪魔にならない。よくわからないけど適当な感じでよろしい。
釣り動画の制作者さんは、作品主義で押したいなら、海外で高評価を受けている作品のように徹底的に作品クオリティを追及してほしい。予算も環境もたいへんだろうとは思うけれど、YouTubeで海外のなにかの賞を受けたようなカッコいい釣り動画をみると、残念ながら彼我の差は歴然としている。とくにフライフィッシング系のかっこいい動画は本当にかっこいい。まあ舶来の釣りなので、向こうの景色やガイジンが出てくるだけで負けてる面は否めない。
下がDVD『みんなのFLY』のトレーラー。このトレーラー映像はあまりよくできておらずピンと来ないが、本編はピュアな笑いが盛りだくさん。カメラはたぶん一台使いで、映像の編集もなんてことなく、ごくごくふつう。このDVDをみて「フライやってみようかな」と思う人がいたら、その人はきっと肩の力が抜けた楽しいフライフィッシャーになるだろう。お友だちになれそうだ。
フライをやったことないルアーマンがフライをやってみようと思い立つための情報量は、必要充分に提供されている。背中をそっと押されてみたいかなと思う方にはおすすめのDVDです。
最後にひとつ文句。このDVDのなかで「オイカワ釣りは渓流の練習にぴったり」と何回もアピールしているが、オイカワ釣りは、オイカワ釣り。なにかの練習ではありませんと、オイカワ釣りが大好きなわたしは思う。
ちなみに多摩地区で子ども時代を過ごした自分は「オイカワ」じゃなくて「銀バヤ」と言う。ウグイは「本バヤ」。あなたはどうですか。