人工ふ化放流に100パーセント依存しているのは日本だけである。

10月5日から11日まで秋サケ定置網の一部を撤去する自主規制に踏み切ることを決めた。十勝川などでの採卵用サケ捕獲数の伸び悩みを受けての措置。網を撤去し、サケの河川遡上(そじょう)を促す。日高管内のえりも岬から根室までの太平洋岸で規制する。沿岸から沖へ伸びる定置網のうち、海岸に対して直角に伸びる垣網(手網)の陸側200メートルを撤去、川へ向かうサケが通りやすくする。(十勝毎日新聞 9.30

日本でシロザケ(アキアジ)の人工ふ化に成功したのは約120年前のことだ。北海道では公共機関による人工ふ化放流量は停滞か縮小傾向にある。このことは記事中では触れられていない。サケ・マス不漁の原因はいろいろと考えられる。

日本の水産行政によるサケ・マス類のばく大な量の人工ふ化放流は世界的にも特異であり、生物多様性の観点からも批判されている。長年にわたって人工ふ化を繰り返してきたことによるサケ・マスの遺伝的形質の変化を問題にする学説もある。

サケ・マス類を河口域で採捕・採卵せず、自然産卵させるために川を遡上させることを「エスケープメント」という。アメリカ、カナダ、ロシアではサケ・マス類の資源確保を人工ふ化に頼っているのはほんの一部である。しかしはじめに人工ふ化放流ありきの日本の水産行政の歴史の中では、エスケープメントによるサケ・マス類の増殖は無視されてきた。

乱獲をせず、河川環境を繁殖の為に保全できれば、自然産卵で資源を維持できる。人工ふ化放流に100パーセント依存しているのは日本だけである。

このあたりの新聞には載らない裏事情は、『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』(水口憲哉)がわかりやすく解説している。

既存のシステムにいろいろと差し障りがあるためか、あまり注目されていない。発行以来、本書に関する発言をあえて控えている水産関係者さんもいらっしゃるようだ。とても残念だ。もっと広く読まれてほしい一冊だ。

十勝毎日新聞社ニュース
苦渋の決断、サケ漁自主規制