スポニチ・アネックスさんが大岡玲さんにロングインタビュー。『文豪たちの釣旅』を話題にしてくださっています。とてもいい記事です。タイトルは〝「一瞬の輝き」求め きょうも川へ海へ〟。
釣り好き著名人に話を聞く「釣談!この人に聞きたい」。第1回は芥川賞作家の大岡玲さん(54)が登場。このほど出版された「文豪たちの釣旅」(フライの雑誌社新書)の作者で、自身もフライから海釣りまでこなす大の釣り好き。博覧強記の才人が話す「釣り」、「釣り人」って?
「文豪たちの釣旅」に登場する文豪は14人。開高健、井伏鱒二ら「釣り好き」として世間にも名をはせた文豪はともかく、その中には立原正秋や坂口安吾の名も。アレ?
「まず釣りのことだけを書いた人ではない人を選びました。あえて“釣り万歳”とはしませんでした。安吾の場合は、『釣師という人種』という作品の中で、釣り師のことを揶揄(やゆ)するような文章を書いていますし…」。
…「文豪たちの釣旅」へ誘う水先案内人の視点は斬新だ。...
以降、とてもていねいに作家大岡玲と釣りとの関係が語られています。〝「釣りをずっとやっていてもそれだけに打ち込むことはできない。かといって仕事にも没入できていない。釣りをしながらそんな中途半端な自分のダメさ加減を知る。ところが魚が掛かった瞬間、そんな思念が全て吹っ飛ぶ。一瞬の輝かしさがあります」〟──。大岡さんのこの言葉には、漁師でもない現代人が釣りに魅かれる理由が凝縮されています。『文豪たちの釣旅』の文豪たちが耽溺した釣りの時間とも重なりあうものでしょう。
本書では、文豪たちの作品を読み解きながら、それを追体験していくというスタンスをとった。たとえば福田蘭童の巻。作品に書かれた「コンドームを餌にイサキを釣る」という“コンドーム釣法”を実際に試してみたりする。
『文豪たちの釣旅』は新書判としては読みごたえある一冊です。ぶ厚い全288ページの中からあえて「コンドームを餌にイサキを釣る」に着目して、わざわざ引っ張ってくるところは、さすがスポニチ。
記事にはこんな一文も。
そんな大岡さんだが、東日本大震災とそれに伴う原発事故の影響が、釣行ペースを鈍化させているのだという。内水面の放射能汚染、立ち上がろうと思っても立ち上がることができない被災地の現実が「のんきな釣り人」でいられない自分に課題を課しているからだ。特に原発事故。
「自分の楽園が汚された。人生の楽しみが奪われた。もう泣きたい気持ちです。ただそれは利便性を追求してきた自分にも非がある。自分を含めた世界がこの世界を踏みにじったのだと思います」
ここでは言及されていませんが、以前から東北の生産者との個人的つながりがあった大岡さんは、震災後にさらに関わりを深めているとのことです。その姿には被災地への支援という以上の、いてもたってもいられない、あつい思いがこめられています。
ブログ「昼あんどんの急ぎ足」から、〝周五郎の溜息が聞こえる〟の記事を併せ読んでみてください。
大岡さんがなぜ、あえて今年の夏に『文豪たちの釣旅』をまとめあげ、日本の社会へ送り出したのか。その意図と意義が見えてきます。
フライの雑誌社はそのお手伝いができたことを誇りに思います。