著者も版元も、淡水魚の放射能汚染に関しての〝専門書〟や〝学術書〟を作るつもりはなかった。むしろその反対路線のだれでも読めるジャーナリスティックなサイエンスエッセイを目指した。その目論みは成功したのではないか。入り口は広く、中身は深く、濃い。
でも発行から2ヶ月たったいま省みて、世の中的には本書の立ち位置はすこし分かりづらいのかもしれないと感じている。淡水魚の放射能汚染の〝専門書〟が出たよ、こんなことを書いてあるらしいよ、と話題にしてくれるひとは多い。ただそこで立ち止まってしまう。
釣り人や漁師でなければ、川と湖の魚の放射能汚染を自分の問題としてとらえられないということだろうか。じつはそのあたりの事情は発行前に予想していた。それで、当初はこんなオビの文句を考えた。
〝どじょっこ、ふなっこが泣いている〟
原発が爆発して放射能を噴き上げても、逃げることもかなわず、福島第一原発の近くの汚染された川と湖で暮らしている魚たちの、今と未来を思う。
チェルノブイリ事故の放射能で川と湖の魚に起きた「異変」については、『淡水魚の放射能』のコラムで扱った。
どじょっこ、ふなっこが棲めないような土地には、人間も暮らせない。
これから二度目の冬が来る。私たちが選ぶべき未来は、森と川と魚たちが教えてくれる。
『淡水魚の放射能 川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』(水口憲哉=著)へ、取次会社の地方・小出版流通センターさんから大量の追加注文をいただきました。明日納品します。