世の中の釣り雑誌で早春のサクラマス特集は定番になっているが今号の「ルアーマガジンリバー 2013年2月号」は構成、写真、文章、情報すべてで出色である。サクラマス好きな釣り師は、他誌のサクラマス特集はともかくまずこの「ルアーマガジンリバー」を買えばいい。くわえてフライの雑誌社刊行の世界唯一のサクラマス単行本『桜鱒の棲む川』を併読すれば、来季はサクラマスがわらわらと大挙して真っ黒になって川を遡上し、どんなへたっぴにもひとりあたま100本釣れるに違いない。
今号の特集と「どんなへたっぴにも」で思い出した。かつて私は山形最上川の貴重きわまりないサクラマスを、はじめてのダブルハンドロッドで見事フッキングして足元まで引き寄せた。そこまではよかったが、同行のカブラー斉藤氏に間違えてランディングを頼んでしまい、案の定あっというまにバラされた。まさかティペットをむんずと握るとは思わなかったよ素人め。釣りは一人に限る。向こうもそう思ってるだろうけどね。帰りの車の中で大げんかしたから。
さて「ルアーマガジンリバー」今号の書評コーナーでは、小社刊行の『淡水魚の放射能』(水口憲哉)を、同著者の歴史的名著『これからどうなる海と大地』といっしょに紹介してくれた。この書評は原発事故後を生きる釣り人に共通する得も言われぬ澱んだ思いをかたちにしてくれた、一個の文学になっている。わたしは読みながらずしんと腹に来るものがあった。さいごまで読み終えゆっくり濃いコーヒーをたてて、カップ一杯をちびちび味わい終えたころに「負けるもんか」と気持ちがふるいたってきた。
なんに対して「負けるもんか」なのか。それはもちろん放射能に対してなのではない(だって勝てるわけないじゃん)。書評文にもあるように、こんな放射能汚染時代に生きざるを得ない自分がそれでも釣り師であり続けることの、目の眩むような困難に対して。あとは「ルアーマガジンリバー」のまさにこれから長く続く絶頂期を迎えようとしている編集者さんたちに対して。今年の秋にマツダさんとオグラさんの二人にイベントで会ったんだよね。若くてまっすぐで生きが良くてかっこよくて、うらやましかった。チッ。
『フライの雑誌』の次号99号でひねこびた中年力みせてやるわい。