2013/11/28
一年をふりかえるにはまだ早いかもしれないが、今年読んだ新刊で印象に残った本を紹介したい。
堀内正徳著『葛西善蔵と釣りがしたい』(フライの雑誌社)は、ある一行がすごく心の深い部分に刺さった。その一行のためだけでも、この本を読んでよかったとおもった。(後略) (「文壇高円寺」荻原魚雷)
荻原魚雷さんのブログ「文壇高円寺」を開いたら、わたしの名前が書いてあって心底おどろいた。心臓をわしづかみにされたようだとはこういうタイミングで使うと知った。
このエントリに書かれているように、荻原魚雷さんには2010年に『朝日のあたる川』(真柄慎一著/フライの雑誌社)について、毎日新聞書評欄「今週の本棚」で、とても好意的な書評をいただいている。〈たとえ挫折しても、また新しい夢を見つければいい〉というのが、その書評のタイトルだった。
その日の朝、毎日新聞の紙面で記事を見つけたわたしは膝をがくがくさせながら、「こんなすてきな書評が新聞に出ているよ!」と真柄さんに教えてあげた。すると、「う? まじっすか?」と電話口の向こうの真柄さんがのんびり言った。いましろたかしさん描くところの例の〝チバちゃん顔〟がほころんでいたに違いない。(『朝日のあたる川』カバーイラスト参照)
ライターさんにとって評価の定まっていない本をあえてとりあげるのはたいへんに勇気がいることだろうと思うのだが、『朝日のあたる川』ではそれをやってくれたライターさんが魚雷さんのほかにもいらっしゃる。本の持っている力なのだろう。
今日わたしは、これまでわたしが一方的にご著書を読んでいる間柄でしかない魚雷さんから、自分の書いた変なタイトルの本『葛西善蔵と釣りがしたい』について、青天の霹靂のように「この本を読んでよかった」と言ってもらえた。ぜひ魚雷さんのブログで続きをよんでほしい。
日本では毎年新刊が約8万点も発行されているらしい。たった半日で発送を終えられるくらいしか世の中に出回っていないちっぽけな本が、まったく不釣り合いなほど大きなお褒めの言葉と知らない出会いをプレゼントしてくれた。お金もないのに『葛西善蔵と釣りがしたい』を出してよかったとつくづく思う。出したはいいがもちろん売れなくて困っているのはよくないけどまあいいや。家族よすまん。
釣りに関する知識がほとんどないのにおもしろい。わたしは真柄さんのファンになった。
『葛西善蔵と釣りがしたい』もそうだった。
完全にタイトルで釣られた。(「文壇高円寺」荻原魚雷)
今日ばかりは〝釣り師でよかった。〟と言おう。わたしはじつは腕利きだったらしい。
(堀内)