小国川ダム計画の見直しは、現在の山形県行政の功績として後世に記録されるだろう。

芭蕉の句で知られる山形県の最上川、その一大支流である小国川にダムはない。

小国川に漁業権を持つ小国川漁協は、山形県が強引に進めている小国川ダム建設へ、一貫して反対し続けてきた。業を煮やした山形県は2013年年末の漁業権切り替えにあたり、「ダム建設は公益事業である」として、これ以上ダムに反対するなら漁業権を与えないぞと、漁協を脅した。本来は漁協を守るべき立場にある山形県農水行政による、裏切りとも言える横暴なやり口だ。

12月18日、地元紙の山形新聞がこれを大きく記事にして異を唱えた。すると、まずSNSをふくめたネット上で山形県への批判が集中し、全国紙、NHK、テレビ媒体がこぞってこの問題をとりあげた。おどろいた山形県農水部は、漁協が県との話し合いに応じないからだと報道発表して逃げようとしたが、じつは小国川漁協と山形県とは2013年の春からだけで何十回も話し合いをもっていた。さらに問題が発覚して以降、山形県が裏で漁協の記者会見を妨害していたことも、県議の告発により明らかになった。

12月24日、吉村美栄子山形県知事が会見して小国川ダムの建設推進を改めて表明したが、小国川漁協はぶれなかった。知事が漁業権認可を諮問する山形県内水面漁場管理委員会は、山形県水産部が事務を仕切っている。山形県は開催日をギリギリまで発表せず、かつ直前で日程をずらそうと工作したが、結局12月25日に開かざるをえなかった。全国から報道陣を含めた多数の傍聴者の目の前で、小国川漁協へ今後あらたに10年間の漁業権が認可される手順となった。

※この間の経緯は「ダムに反対するなら漁業権を不許可にするぞと、山形県が脅している(まとめ)」をご参照ください。

山形県は1992年に県民から公募して〈県の魚〉をサクラマスに決めた。サクラマスは近年ずっとその数を減らし続けている。自然に海と川とを行き来して子孫を残すサクラマスは、ダムや堰堤で自由な往来が阻害されると、子孫を残すことができない。山形県は小国川と同じ最上川支流の月布川で、六億六千万円の税金をかけてサクラマスの人工ふ化場を整備したが、2004年までの10年間でふ化場内への遡上は1匹もない(『桜鱒の棲む川』水口憲哉著/フライの雑誌社刊より)。

住民、漁業者、専門家からの反対意見を無視するかたちで、小国川ダム計画をむりやり進めている山形県行政は、従前から批判されてきた。今回、長年小国川と共に生きて来た小国川漁協の漁業権を、実質的に剥奪するぞという反社会的な脅しをかけてまで、山形県は小国川ダムの建設を強行しようとした。もはやダムの利点について山形県がどれだけ詭弁を弄しても、小国川ダム建設の目的が、単にカネを使うダムを作りたいからだけだ、ということは明白だ。

みずからの行政的な傲慢に集中砲火を浴びた今後、山形県は小国川ダム計画について、より慎重な対応をとらざるをえないだろう。漁業権は強制収用できない。そして、流域に漁業権を持つ漁協が同意しなければ、ダムは絶対にできない。全国の河川でも「もうダムの時代ではない」として、ダム計画の撤回が次々に表明されている。小国川ダム計画の見直しは、現在の山形県行政の功績として後世に記録されるだろう。

山形県の賢明な判断が待たれる。

(本誌・堀内正徳)

山形県が持ち出した「ダム建設は公益事業である」という論理に対して、12月19日に小国川漁協が山形県へ提出した意見書がこれだ。(今回、小国川漁協を応援する立場で活発な行動を展開した草島進一山形県議会議員のfacebookから)

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