片足で3分立てますか。

オホーツクの男が電話をかけてきて、「さいきんどうすか〜ぁ」と言う。「どうすか〜ぁ」というのはオホーツク弁だ。語尾がだらーんとのびる。

「どうすか〜ぁ、と言われても、どうもない」
「そうすか〜ぁ」
「そっちは寒いかい」
「かー。これだから東京のひとは困る。なーんも分かってないですねぇ。オホーツクの冬は寒いなんてもんじゃない。痛いんです。濡れタオルを外で振り回すと30秒でカチンコチンです」
「すっげー」
「オホーツクへ遊びにきてくださーい。マイナス30度でワカサギ釣りしましょー」

いや、いいです。

「そういえばさいきん運動不足でつらい。太った」
「そうすか〜ぁ。こないだテレビで、片足で3分ずつ立つと、太ももがパンパンになってウォーキングの代わりになるって言ってました。やったらいいじゃないすか〜ぁ」

で、やってみた。

3分間はカップラーメンの待ち時間やウルトラマンの地球上での活動時間と同じだが、実際に片足で立ってキッチンタイマーで3分を測ってみると、ものすごく長い。カップラーメンの麺はぐだぐだにのびるし、ウルトラマンは怪獣をぶっ倒した後に一服してお茶漬けをいただけそうなくらいに長い。

片足立ちして、ひまなもので、もう片方の足をバレリーナみたいに後ろへ反り返らせたり、直角に膝を持ちあげてカカシ状態での片足スクワットとかしているうちに、だんだん疲れてきた。同時に(46にもなってなんでおれこんなことしてるんだろ)という疑問もわいてきた。

と、邪念のせいでバランスが崩れた。冷蔵庫の角に頭をぶつけた。

打ち所がわるく、しばらくその場にうずくまっていた。

もうやんないからな。


『葛西善蔵と釣りがしたい』 堀内正徳=著 (『フライの雑誌』編集人)
オホーツクの男が大活躍 『葛西善蔵と釣りがしたい』
堀内正徳=著
(『フライの雑誌』編集人)