千と千尋の〝カオナシ〟みたいな感じ? 

小社刊行『文豪たちの釣旅』著者、大岡玲さんの「超漢字マガジン」連載エッセイ、〈日本語は、頑固なダブルデッカー〉第11回が公開された。

よく知られているように、「ポン酢」はオランダ語の”pons”という言葉由来だといわれている。…「ピンからキリ」の「ピン」もポルトガル語由来だし、…こうした言葉たちは、総じて戦国期から江戸幕府初期までの百年足らずのあいだに日本に入ってきた。そして、翻訳されることなく、そのまま日本の言語に溶けこんでいったのだ。

明治維新期の日本の言語状況は、文章語は本来は外国語である「漢文」と、漢文訓読由来の和漢混淆文、和語、それに滑稽本などに見られる俗な会話文(これも基本は和語だが)の、ダブルデッカーどころではない三層+α構造であり、口語は藩制度によって固着化が進んだ地域語・方言がどっさりあるというありさま。どの言葉をどう使ってどう訳せっていうんじゃい!

この連載エッセイは現代日本語のありようと来歴について、大岡さんの博覧強記が縦横無尽に斬りまくり、愛しまくるものだ。面白い。日本語ふかい。

日本語の妙な〝頑固さ〟と〝融通無碍さ〟を教えてもらって、ちょっとちがうかもしれないけど、さいきんの国家主義的な文化人さんたちの、心情的背景をふと思った。

つまり、

ガードが固いそぶりを見せているくせに、おっぴろげたとなるとあさましい程どんよくで、節操がない。しかも吞み込んだらさいご、さも神代の以前から我がものであったかのようなしたり顔をして、咀嚼し、げっぷを吐いて、オレはえらいんだといばりだす。否定されると暴れる。

イメージとしては千と千尋の〝カオナシ〟みたいな感じ? 「あ、あ、」ってやつです。

幕末から明治にかけて、欧米の文明・文物を必死で受け入れようと格闘した人々のことを思い浮かべ、彼らの苦労を偲ぶ気分になるのである。

さんざん国を挙げて海外から生き物を連れてきたくせに、いったん風向きがかわると手のひら返して総叩きする。あらがう異分子にはレッテル貼ってつるしあげる。

そんなことも考えあわせると、やっぱり日本という国はなかなかたいしたものと思う。

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『文豪たちの釣旅』(大岡玲著) 芥川賞作家 大岡玲が案内する 日本の文豪14人が描いた釣りと旅とその作品世界 「きちんと努力していけばきっと事態は好転する。  少しはましな明日がやってくる」(本文より)
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「きちんと努力していけばきっと事態は好転する。
 少しはましな明日がやってくる」(本文より)