【公開記事】ニジマスとはどんな魚か

ニジマスとはどんな魚か

1877年、日本は米国から最初にニジマス卵の寄贈を受けた。1887年、日本政府は米国から輸入したニジマス卵を中禅寺湖と猪苗代湖へ移殖放流している。
 

導入は1877年以降水産庁主導で正規に行なわれ、1980年代まで各地で盛んに放流されたが本州ではほとんど定着しなかった。現在も養殖・放流が盛んに行なわれている。全国的に養殖や管理釣り場で利用され、遊漁を目的として各地の河川や湖沼に導入されているが、今のところ北海道等の限られた地域でしか定着が確認されていない。

環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室

20世紀初頭、日本は第一次世界大戦後の恐慌に加えて関東大震災の影響もあって、深刻な経済不況下にあった。内水面での食料生産を目的として、日本政府は魚類増殖の施策を行った。第二次世界大戦前だけで数十回にわたり、アメリカからニジマスをはじめ、ブルックトラウト、ブラウントラウトの発眼卵が移入され、各地の河川へ放流されている。(2008年.水産庁「渓流魚の放流マニュアル」資料編より)

サケ科魚類の海外からの移入と国内移殖は、水産庁が推進して全国各地の川と湖で、多額の税金を投入して進められてきた事業だ。そういった過去の事実は21世紀に入って登場した生物多様性の思想とはそぐわない。水産庁は苦慮しているが、すり合せはできていない。

2005年施行の特定外来生物法において、ニジマスは「要注意外来生物」に指定された。しかしいまなおニジマスは内水面漁業の重要な養殖魚種である。2012年には約5147トンが内水面で養殖されている。(2008年.農林水産省.内水面漁業生産統計調査) 食用と遊漁のための種苗放流が主な用途だ。

区切った河川や人工的な池でニジマスを釣らせて、その場で食べさせるレジャー施設も多い。国策による最初の移入から130年以上を経たニジマスは、在来マス類と遜色ないほどに(あるいはもっと深く)、日本の一般市民の生活と結びついている。現代の日本人にとってもっとも身近なマスのひとつがニジマスだといえる。

近年になって、生物多様性を原理主義的にとらえる立場から、ニジマスは日本の川や湖にふさわしくないという意見が出てきている。

日本の国土は、人間の手が入って長い時間がたった二次的自然や、改変自然がほとんどを占める。海外からの生物の移殖、国内の移動も歴史的に連綿と行われてきている。

そんな日本における生物多様性の保全とは何なのか。〝本来の生物相〟を誰が決めるのか。水産的な経済活動を、生物多様性の概念とどのように関連づけていくのか。

生物多様性を根本から阻害するダムや堰堤、河川改修、開発行為にどう対処するのか。環境破壊を放置して、生物多様性の名の下に生き物を誰何するのは、角を矯めて牛を殺すようなものではないか。まず身近な自然を見つめ直すことから始めるべきではないか。

引きつづき多面的な視点からの議論が必要だ。

文責:堀内正徳(フライの雑誌社)
2014年3月18日記

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水産庁釣人専門官からの情報提供(2014.3.18付 日経新聞)
水産庁釣人専門官からの情報提供(2014.3.18付 日経新聞)