池を作ろうと思う。48

旧池の水をバケツリレーでくみだして十数分。だいぶ水が少なくなった。わたしの池はこんな水量しかなかったんだな。たいしたミクロコスモスだ。
旧池の水をバケツリレーでくみだして十数分。だいぶ水が少なくなった。わたしの池はこんな水量しかなかったんだな。たいしたミクロコスモスだ。

旧池からくみ出した水は衣装ケースの中にためた。新池の水がおちつくまで、生き物を仮に移し入れておく。このドロドロした水が、生き物のためにはたいへん重要。天文学的な量のバクテリアだの細菌だのちっこい生き物がこの中にうようよいるに違いない。旧池で一年かけてこの水を作ったのだ。
旧池からくみ出した水は衣装ケースの中にためた。新池の水がおちつくまで、生き物を仮に移し入れておく。このドロドロした水が、生き物のためにはたいへん重要。天文学的な量のバクテリアだの細菌だのちっこい生き物がこの中にうようよいるに違いない。旧池で一年かけてこの水を作ったのだ。
旧池の底を泥と一緒に網でさらう。さいきん流行りのかいぼりです。
旧池の底を泥と一緒に網でさらう。さいきん流行りのかいぼりです。
ドジョウがでた。
ドジョウがでた。
よく分からないヨシノボリがでた。うん、たしかにこれは池に入れた記憶がある。
よく分からないヨシノボリがでた。うん、たしかにこれは池に入れた記憶がある。
シマドジョウも。これも入れた。けっきょく、オイカワはすべてカワセミに食われきって一尾も残っていなが、それ以外の底生魚類は、記憶にある入れたサカナはぜんぶすくうことができた。そのどれもが、一年前よりふたまわりほど巨大になっていた。
シマドジョウも。これも入れた。けっきょく、オイカワはすべてカワセミに食われきって一尾も残っていなが、それ以外の底生魚類は、記憶にある入れたサカナはぜんぶすくうことができた。そのどれもが、一年前よりふたまわりほど巨大になっていた。ほとんど餌は与えていなかったから、植物だのエビだの微生物だのサカナだの、こんな小さな池のなかの生態系のバランスがとれていたということだ。すこしまんぞく。
「あ、エビがいた」「すくえ」。最終的に、この旧池底のすべてのドロドロを、衣装ケースの中へどぼどぼと注ぎ込んだ。子どもの頃にザリガニを獲っていた近所のドブ川の匂いがする。
「あ、エビがいた」「すくえ」。最終的に、この旧池底のすべてのドロドロを、衣装ケースの中へどぼどぼと注ぎ込んだ。子どもの頃にザリガニを獲っていた近所のドブの匂いがする。正直いってくさいです。
旧池の水と生き物をひと通りすくいおえた。旧池のゴムシートをゆっくり持ち上げる。「一見、なにも生き物がいなさそうにみえるけどな。じつはこういう泥の中にこそ、われわれ人間が思いもよらぬような生き物たちがたくさん暮らしているのだ。そのことへ思いを馳せなければならない。わかったか。」と、あらかじめ言おうと用意しておいた台詞を10歳児に言い聞かせた。「わかったのか。」「はいはい。」「はいは一回でいい。」
旧池の水と生き物をひと通りすくいおえた。旧池のゴムシートをゆっくり持ち上げる。「一見、なにも生き物がいなさそうにみえるけどな。じつはこういう泥の中にこそ、われわれの目に見えないちっさい生き物たちが、想像もつかないほど、たくさん暮らしているのだ。えらそうにしてるけどな、そういうたくさんのちっさい連中がいてくれないと、人間なんか生きられないのだ。だからそういうちっさい生き物たちへ、人間はもっと思いを馳せるべきだとおれは思う。わかったか。」と、10歳児に言った。池を作り直すときに言おうと思っていた台詞だ。「わかったか。」「はいはい。」「はいは一回でいい。」「はいはい。」
ゴムシートを外しおえた旧池。わたしのこころにもぽっかりと穴があいたような。作業はまだこれからだ。
ゴムシートを外しおえた旧池。わたしのこころにもぽっかりと穴があいたような。作業はまだこれからだ。

葛西善蔵と釣りがしたい 堀内正徳著(『フライの雑誌』編集人)
葛西善蔵と釣りがしたい 堀内正徳著(『フライの雑誌』編集人)