フライの雑誌-第65号(2004年5月発行)から、「フィールド通信」を公開します。当時とは川と釣り場をめぐる状況は変わっています。(編集部)
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まだまだ奥多摩川/
これまでの総括と今後の展開
三上 隆(東京都羽村市/会社員/フライフィッシングクラブFAN)
尾数制限10尾には効果がなかった
本誌第62号で、東京都・奥多摩川での河川利用実態を把握するための、釣り人数の定点観測活動を報告した。また、第63号では奥多摩漁協による制限尾数(バッグ・リミット:bag limit)の導入過程を報告した。今回は昨年11月の冬期ニジマス放流における尾数制限導入効果の検証と、私たちが解禁当初から12月末まで通年で行なった定点観測の総括をしたい。
昨秋のニジマス釣り尾数制限は、長い期間楽しめる釣り場作りのためにと釣り人が奥多摩漁協に問いかけた結果として行われた。となれば、実際に放流後どのように釣り人が減少するのかを、私たちがすでに調査してある春の解禁時のデータと比較・検討するのが妥当と考えた。
図1に観測結果を示した。横軸が放流日からの経過日数、縦軸が放流当日の釣り人数を100とした場合の釣り人数の変化だ。春の3回の放流日とほぼ同じか、若干低いくらいの結果となっている。つまり、制限尾数10尾には効果がなかったということになる。
その理由としては、第1に制限尾数10尾が多すぎた点、第2に告知期間が短すぎた点、第3に規則化されていないため尾数制限の強制力がなかった点が考えられる。放流当日私たちが行なった聞き取りアンケート(全釣り人数416名中6%にあたる26名に対して実施)では、当日に尾数制限を知った人が4割だった。制限内で持ち帰ると答えた人は約6割だったが、全部持ち帰ると答えた人も約3割いた。
制限の根拠は「なんとなく」でしかない
本当に10尾という制限が適切だったのか。釣り人数と放流規模から妥当な制限(バッグ・リミットだけではなく、キャッチ・アンド・リリースも含んだ意味)が決定できれば、大多数の釣り人が納得できるルールとなるだろう。
たたき台として次のような数字の遊びをしてみた。釣りに来たすべての人が10尾の制限いっぱいに持ち帰った場合の、残存尾数を図2に示した。横軸が放流日からの経過日数、縦軸が残存尾数の割合だ。自然減耗分もあるだろうが、話をわかりやすくするために単純化した。
制限尾数を半分の5尾にしたとする。制限尾数10尾の時には、初日だけで残存尾数は48%まで下がったが、制限5尾の場合は同じ48%まで下がるのに 56日もかかる。制限尾数を半分にすれば、残存尾数が倍の日数に延びるのではなく、釣り人数の減少の仕方との関連ではるかに長くなる可能性があるということだ。
今回の「制限尾数10尾」は、奥多摩漁協が「なんとなく」出してきた数値というのが私の率直な印象だ。もちろん、やってみないと何もわからなかったので、今回の実験を行なった漁協の姿勢は評価されるべきではある。「なんとなく」しか制限の数値を出せないのは漁協のせいだけではなく、その数値を算出する基準が何もないことに起因する。
放流量と釣り人の数、自然に減少する分などを総合的に考え、尾数制限にするべきなのか、キャッチ・アンド・リリースとするのが適切なのかを決めていく判断基準が必要だ。これまでの日本の釣り場管理では、適切な議論がなされないまま、魚を残すことイコール、キャッチ・アンド・リリースという図式に偏ってしまった感が否めない。
なぜその基準がないのか。漁協は漁業者のための団体であり、管轄である水産行政も漁業のための官庁なので、遊魚としての管理に責務を持たない。しかし、現状の漁業法ならびに内水面漁業調整規則の範疇で考えるのであれば、これらのルール設定のための基準は、規制される側である釣り人からの提案ではなく、管理する側(漁協・水産行政)からもたらされてしかるべきだと思う。しかも、それらは科学的に行なわれ、納得性の高い形で示されるべきだ。
競争釣りと釣り味を楽しむ釣りの共存
図1にはアユの釣り人数の減少曲線も示した。アユの場合は、なぜこれほどマス類と減少傾向が異なるのか。
友釣りは放流した幼魚が成長し、ナワバリを持つからこそ成り立つ釣りだ。つまり、放流日から十分な日数が経過し、魚が分散した後に釣りが解禁される。あらかじめ告知された放流日と放流地点に、待ち受けている釣り人の目の前で組合員がバケツの魚を放流するマス類とは雲泥の差がある。
また、アユには釣り大会が設定されており、当日は区間を区切って競技が行なわれる。マス類には釣り大会はなく、その代わり(?)にあるのが年3回の放流日だ。人と競争するのが楽しいのは事実だが、それがすべてではないはずだ。奥多摩漁協の現状の運営方法では競争がすべてになってしまっている。競争が終って、さて釣り味を楽しむ釣りをしようと思った時、そこに魚はいない。
つまり、1、放流場所を特定しない放流、2、放流後十分な時間がたった後の解禁、3、釣り大会は別途区間を設定して行なうことで、競争したい釣り人と、釣り味を楽しみたい釣り人の双方を満足させることが可能になるのではないか。
奥多摩川についてのより詳細な情報は、2003年度のFANの活動をまとめた報告書で閲覧できます。http://f8.aaacafe.ne.jp/~fans/
霞ヶ関連続勉強会のメンバーが奥多摩川の解禁日に出かけた
編集部
今年3月7日、東京都・奥多摩川の解禁日見学ツアーを、「川と湖の釣りを考える連続勉強会」(毎月第4木曜日に霞ヶ関水産庁で開催。90頁参照)が発案し、有志が誘い合って出かけた。地元のフライフィッシングクラブFANのメンバーが案内した。
なにかと話題の多い“奥多摩名物”バケツ放流の目視が期待されたが、今年のバケツ放流は例年より早い時間に行われたようで、朝10時の集合時にはすでに放流は終わった後。それでも、放流場所での釣り人の混雑ぶりと放流場所以外の閑散さとの対比に驚いたり、12時の解禁の花火を待ちわびてエサの付いた仕掛けを水面すれすれに定位させる釣り人の気合いに感心したり、10メートル以上のアユ竿を駆使して流れの真ん中にイクラをナチュラルドリフトし、ヤマメとニジマスを次々と抜いていく釣り人の技量に眼を見はったり、ほんの少しの流れの違いなのに隣り同士で釣果に雲泥の差が出るのを目撃して、やはり釣りは場所だと感じ入るなど、実りの多い見学会となった。
奥多摩に来るのは初めてという参加者が数人釣り支度をしてきていたが、結局ひとりも竿を出さなかった。実際に自分の目で見ないと分からないことがたくさんある。
埼玉県・秩父荒川のキャッチ・アンド・リリース区間が休止になった
編集部
関東近郊の釣り人に人気があり、釣り雑誌でも華やかに紹介された秩父荒川のキャッチ・アンド・リリース区間が、今年は休止となった。
関係者によると、もともとつりぼり的機能を期待されてのキャッチ・アンド・リリース区間設定で、初年度の2002年は日釣り券がそれまでの4、5倍売れた。一方で、夜間に投網で魚を持ち帰る人やエサ釣りで抜いていく人の姿も多かった。それが秋の台風の被害に遭い、川相が変わった。浅くなり、魚がいつけなくなったという。
2年目の2003年、釣り人もそれなりに増え「釣りぼり」としては採算的には合っていたとの声もあるなかで、今年の解禁時、管轄する秩父漁協のウェブサイトに「3月1日からのC&Rは休止となりました」と記された。理由はサイト上に示されていない。
4月26日、編集部で秩父漁協へ取材した。対応してくれたのは漁協参事の原島氏。(なぜ休止なのか)「もともとあそこはアユの河川だった。ここのところずっとアユの調子が悪いので、今年はそういうもの(ヤマメ・マス)は放流せず、アユのみを放流しようということになった」。(キャッチ・アンド・リリース区間を作って釣り人は増えたか)「増えはしたが、期待したほどではなかった」。(休止に対する釣り人からの意見は)「問い合わせをもらうこともある。続けて欲しいとの声もあるがアユの調子が悪いことを説明し納得してもらっている」。