今まで黙っていたが、去る2014年12月10日(水)、群馬県桐生市にある島崎憲司郎さんの「シマザキデザイン・インセクトラウトスタジオ」へ取材に行っていた。
本誌最新第103号の第2特集〈Shimazaki Flies 2014 Selection 2〉でもお世話になった島崎憲司郎さんは、現在、単行本近刊の『シマザキフライズ』を鋭意執筆中である。執筆のお邪魔をするのは心苦しいところだったが、第103号のお礼もあるし年内にぜひ伺いたかった。
本誌読者にはおなじみ、京都のバンブーロッド・ビルダー 北岡勝博さんが自ら伐った京都の竹を、彼のバンブーロッド作りの師匠で島崎さんの朋友、中村羽舟さんへ届けるというので、ちょっと便乗したところもある。
10日朝に都下編集部近くで待ち合わせして、わたしの車で一路桐生へと向かった。いつものことながら、釣り仲間といっしょの車中はあれやこれやの話が尽きない。北岡さんと会うのは久しぶりだ。北岡さんは単行本『バンブーロッド教書』の素敵な表紙イラストも描いてくれている。バンブーロッド絡みの話題がてんこもり状態、お互い異様なハイテンションが右肩上がりのまま、桐生の島崎邸へ到着した。
「こんちはーっ!」と二人で勢いよくスタジオへ入ると、出迎えてくれた島崎憲司郎さんはいつものようにフレンドリーではあるが、どことなくメガネの向こうになにかが沈潜した雰囲気だ。こういうとき、北岡さんとわたしは島崎さんの様子の変化を察知するのが的確で早い。二人とも即座に(あー。島崎さん、なんかやってたな。)と感じとった。昨日まで修羅場状態だったスタジオ内を来客(?)に備えて本人いわく「泥縄式に」「これでも片づけたんだよ」。
翌11日(木)朝は、北岡さんが持参した試作竿のキャスティングテストを兼ねて、島崎さん、羽舟さん、北岡さん、わたしの四人で、近所の渡良瀬川へ。
あいにく曇っていて今にも雪か雨かが降り出しそうな真冬の川辺に登場したのは、北岡さんの最新作の7フィート8インチ#4だった。言われなければ気づかない細部に数々の斬新な工夫が施されている入魂の試作ロッドにラインがセットされて、島崎憲司郎の手に渡った。
本誌第101号の「バンブーロッドのキャスティング」特集で、島崎さんは〝おれのはテストドライバーの運転みたいなものだからさ〟と自嘲的に洩らしている。これは、標準的な教科書や従来のパラダイムなどに全然縛られていない独特のキャスティングを「よい子は真似しないでね~」ととぼけているのだ。(念のために言っておくと、北米や欧州で現在行われている普通のキャスティングや、それぞれのセオリーなども充分承知の上でやっている確信犯なので、コワイのです。)
『フライの雑誌』の読者にはとうにお分かりのように、魚を釣る、フライキャスティングを楽しむ、バンブーロッドの性能を極限まで引き出す、ことにかけては、島崎憲司郎さんは尋常ではない領域を鼻唄交じりで楽しんでいる。たとえばこちらの動画をご参照のほど。シマザキ・キャストのオリジナリティと遊び心には驚くばかりだが、「本業はフックのデザインとかタイイングだからさ。キャスティングは戯(たわむ)れだよ戯れ。道楽だから失うものは何もないんだよ」とのこと。
そう言われてしまうとますます気になるシマザキ式キャスティングの解説は、島崎さんご本人に書いていただくことにします。『フライの雑誌』の次号第104号に掲載します。シマザキ・キャストの真髄が明かされる第104号は、2015年2月15日発行です。
今回はプレビューを兼ねて、当日の島崎憲司郎さんのバンブーロッド・キャスティングを、写真と動画で少し紹介します。
写真4点:カウンター・バックストップ
使用ロッドは北岡竿7フィート8インチ、ラインはDT4。2014年12月10日のカメラテスト&取材風景。撮影は『フライの雑誌』編集部。
動画1:Kenshiro Shimazaki Dec.10 2014
2014年12月10日撮影。ピックアップ&レイダウン・キャストと、シマザキ逆ループキャストのテストムービー。写真1~3とは違って、ラインホールを入れたキャストでロッドの挙動をチェックしている。カメラテストを兼ねて『フライの雑誌』編集部が撮影。
「カウンター・バックストップ」、「逆ループキャスト」その他は『フライの雑誌』104号でくわしく解説します。
Counter Back Stop
Reversed-Loop Cast
Kenshiro Shimazaki
Dec.10 2014
Watarase River
おまけ 動画2:〝野良猫A〟の一例
島崎さんのネコ好きはよく知られている。わたしもネコ大好きだ。『フライの雑誌』第102号特集◎〈シマザキ・ワールド14 Shimazaki Flies 2014 Selection〉に、島崎さんが〝野良猫A〟のたとえ話を書いてくれている。ネコが好きで団体行動が苦手で、そのわりにさびしがり屋のわたしには見事にはまり、とても力づけられた一節だった。本文から少し引く。
…◆たとえばそこに野良猫Aがいたとして、近所の飼い猫BやCやDがつけている赤や青の首輪や、銀色や金色の鈴だのがAの眼に映ったとする。Aは、自分もあんなのが欲しいとは思わないだろう。一方BやCやDたちは、Aの何もついていない頸を見て、自分たちもああなりたいと望んだとしても、それには大きなリスクがついてくる。黙っていても毎日出てくるキャットフードや、時々もらえるツナ缶や大好物のマグロの刺身などにありつけなくなるだけではない。ふかふかのソファに日がな一日寝そべったり、飼い主に抱かれて頭を撫でてもらうことなども一切できなくなるのだ。…
(第102号特集◎〈シマザキ・ワールド14 Shimazaki Flies 2014 Selection〉p.3より
さっき島崎さんが「〝野良猫A〟にぴったりの動画見つけた」と言って、動画のURLを送ってきてくれた。「水たまりをネコが歩いているんだけど、動きがすんごく面白いんだよね」とのこと。さっそく見ると、おっしゃる通りまさに〝野良猫A〟の風体で、動きもたしかに面白い。顔と体全体からにじみ出ている野良猫感がひじょうに趣き深い。
たぶん、わたしが「あの〝野良猫A〟の話はいいですねえ」としつこく伝えていたのを、覚えていてくれたのだろう。ではあるが、あの島崎憲司郎がこんな、言ってみればなーんてことないネコ動画をどういう流れからなのかネットの大海から見つけてきて、たいそう喜んでわたしにも教えてきてくれたという現実にかるくのけぞってみた次第。
この〝野良猫A〟のエピソードが含まれた、第102号の〈シマザキ・ワールド14 Shimazaki Flies 2014 Selection〉はとってもいい。最初の見開きのプロローグは超一流のエッセイだ。未読の方にはつよくつよくおススメしたい。ここまでススメても読んでくれないならもういいです、ってくらいの勢いでおススメしたい。