カブラー斉藤は妖怪である。

昨夜というより今朝、カブラー斉藤(歳上だがあえて呼び捨て)から、遅れていた原稿が届いた。あまりに原稿が遅いし連絡もつかないので、急速に腹が立って、「20日までに届かなかったらページ切るし」という最後通告をしていた。そうしたら今朝原稿が来た。そういう男だ。

カブラーさんとは20数年のつきあいになる。その間、のべ70冊以上の『フライの雑誌』に記事を書いてもらってきた。むかしは個人的にもあちこちへ一緒に釣りに行った(もう行かない)。北海道へも山形へも遠征した(もう行かない)。色々と人も紹介した(もう紹介しない)。

カブラーは能力的にはとても優秀な人間だ。わたしなどよりはるかに頭もいい。しかし生来のあまりの凝り性のために、何をやるにも仕事が遅い。あるいは考えるだけ考えて、やれない。本誌に書いているように、フライ一本巻くのにマテリアル作りから考え始めて半年かかっちゃったとかは短い方だ。

以前は、7,000文字の約束なのに、締め切りを10日もすぎて大学ノートの切れっ端に書いた、20,000字以上もの呪文のような手書き原稿を平然とコンビニからファクスで送ってきて、知らんぷりされたこともある。あのときはさすがに呼び出して焼鳥を食わせ説教した。

もちろん過去70冊の寄稿すべてで、締め切りを守ったことはない。15年前にやるって約束した単行本どうした。

今回の第104号でもカブラー氏は、原稿はおそいわ、連絡しても無視するわで、いつものようにやりたい放題やっていた。最近わたしは歳を取ってきて、身の回りに腹をくくってきた部分がある。だから、カブラーとはいくら長いつき合いでも今回こそいいかげんぶった切ろうかと思った。ていうか正直毎回そう思っている。

ところが今朝届いた原稿は、これがすばらしい。だいたい面白い原稿は、メールならひらいた瞬間に、郵便なら封を切った瞬間に、読む前に(これ面白いぞ)と直感する。ビビッと来ましたね。自慢の妖怪アンテナみたいなものだ。このアンテナがだめになったらわたしもおわりだ。

ともあれ、第104号でもカブラー斉藤の連載はつづき、わたしの胃の痛い日々もつづく。ぜったいカブラーの方がわたしより長生きすると思う。

ありし日の(まだ元気だけど)カブラー斉藤氏。ササノフライタックルクラフターズ(埼玉県蕨市)前にて。待ち合わせの時間に2時間半も遅れてやってきた。背負っているのは自作の「超巨大バックパック」。ササノの社長に見せたかったらしい。ササノの社長がコレをみてたいへん喜んでいたのが救い。
ありし日の(まだ元気だけど)カブラー斉藤氏。ササノフライタックルクラフターズ(埼玉県蕨市)前にて。待ち合わせの時間に3時間も遅れて夕暮れ近くになってやってきた。背負っているのは自作の「超巨大バックパック」(『フライの雑誌』82号参照)。ササノの社長にどうしても見せたかったらしい。ササノの社長がコレをみてたいへん喜んでいたのが救い。