先日の北海道取材で、携帯電話の充電器をなくした。

なくしそうだなと思っていたが、やっぱりなくした。こういうことへのカンは鋭いのだ。だったら気をつけなさい。旅行に出かけると、かならずなにかをなくしたり、壊したりする。私はかつて、あの高級なリコーのGR1をオホーツクの神にドボンと捧げたことすらある。あのときはGR1と一緒に流氷へのって遠くへ行ってしまおうかと思った。肩を落としている私を見て同行のカブラー斉藤氏がなぜか満足げだったのがいまでも腹立たしい。

もう5年ちかく使っている携帯電話である。先日あたらしいカメラを後先考えずに購入したばかりだし、なくした充電器と同じものを新しく買うのもなんとなくばかばかしい。かといって、さいきんは携帯も高価なので機種変更もしづらい。そこで思い出したのが、災害時用に買って押し入れにしまったままになっている、手回し充電式のライトである。本体からハンドルを引き出してグルグル回せば、ラジオも聞けるしライトも点く、携帯電話も充電できるというスグレモノだったはずだ。(こういうの)

充電器

さっそく取り出して携帯に接続し、ハンドルを回した。すごく疲れる。ここ数年の私は体重は増加、パワーは減少の一途をたどっている。生まれてこのかた、リールのハンドルより重いものは回したことがない。手回し充電のハンドルはまるで朝青龍の右腕のようにずっしりと重い。

あらためて説明書を読むと〈携帯電話は充電20分〉と書いてある。まいったなあと思いつつがんばって回していると、タイミングよく友人から携帯に電話がかかってきた。ハンドル回しながら電話に出た。こういうときにかぎってややこしい話題で長電話になる。会話に夢中になってハンドルを回す手がおろそかになると、すぐさま電池が一本になって色が青くなるので、「ちょっと待って。」と相手に言ってハンドル回しに集中した。60分の電話の間じゅう、頭も手もひとときも休めなかった。すごく疲れた。

やはり充電器買うべきか、それともこのままハンドルを回し続ける人生を歩むか。こんど私に会った方は、私が街角で人目を避けるようにぐるぐるハンドルを回していたら、「ああ、充電器買えなかったんだね。」と思ってやさしく見守ってやってください。