わたしが10代のとき、たとえば国際反戦デーとか外国人登録法改正とかの名目のデモが、毎週どこかで行われていた。わたしは時々一人で出かけて行き、適当な市民の隊列に飛び入りで加わって、週末の都内を歩いた。「おっかねえなあ。市民隊列がいちばんパクられる確率高いんだぜ。」と、党派の隊列の最前列にいたお兄さんが笑いながら教えてくれた。後日そのお兄さんがパクられて21日間入ったと聞いた。
ごつい機動隊員にわざと足を踏まれそうになったり、マスクした公安に至近距離からバシバシ写真を撮られたり。大声でコールしながら足を棒にして街中を歩いても、翌日の新聞にはせいぜいベタ記事でとりあげられるのがせいぜいだった。
当時のわたしは1960年代末から70年代の新左翼系の活動史に興味があった。古本屋を巡ってはその手の「ゲバ本」を買い求めていた。といって新左翼思想に共鳴していたわけではない。ただの興味本位だ。デモの最前列でヘルメットを被っている人々を遠くから眺めて、「今日の密集はちょっと多いぞ。」と喜んでいた。わたしのメンタリティは現代で言うところの「ドルオタ」ないし「ミリオタ」に近かったろう(ただし半ちくな)。
もちろん、釣りのいいシーズンには、デモになんか行くはずもなかった。町内会の祭りになるとどこぞの路地から元ヤン風の兄ちゃんたちが上半身はだかでわらわら湧いてきて、びっくりする。でも使いっ走りの兄ちゃんの方が、わたしなんかより今も昔も人としてずっと気合いが入っているのは間違いない。
さて、NHKではかたくなにスルーしているが、べつにNHKでなくてもいろんな情報ソースがある。いま、国会周辺をはじめ、各地で安保法案撤回を求める反政府デモ(って呼んでいいんじゃん?)がたくさん行われていることは、日野の片隅で釣り雑誌を作っているおっさんのわたしも知っている。
学生のわたしは、およそ20年前の「ゲバ本」を読みふけりながら、「もし自分がリアルタイムでこの時代にいたら一緒になって活動しただろうか。」と考えていた。そりゃあもちろんやるに決まってるさ、とは全く思わなかったのを妙に覚えている。
そういえばあのころ、ブント崩れの長髪メガネで小柄な中年のおじさん(いまのわたしより歳下)と街頭で知り合って、何回かお茶した。オルグという言葉をわたしが知ったのは、会わなくなった後だ。おじさんは「革命が起こったらおれ反革命になる。」とえらそうに言っていた。ばかめ、と思ったものだ。まさかいまのわたしはあのおじさんではなかろうな。
今年の夏は、都心はもとより、街自体へほとんど出かけていない。川へはほぼ毎日行っている。次の選挙で自民党と公明党の議員は全員落選すればいいと思っている。といって権力を権力が置換すればもっと悪くなるのは歴史が教えてくれている。
こんなときに思い出すのはあの言葉だ。
釣らう。無心の姿で、釣するために釣らうではないか。