オホーツクから来た男と河口湖へ行く

オホーツクから来た男がオホーツクへ帰る日が近づいた。最終日に「何を釣りたいか」と聞いたら、「バスか金魚を釣ってみたい」と言った。

「金魚を釣ってみたい」というのは、先に私が地元にある金魚の釣り堀の話をしたときに、「北海道には金魚を釣る文化はありません!」と興奮していたので、「じゃあ金魚釣りでも行くかい?」となりかけたのだが、「それはまあちょっと・・・」ということで、バス釣りになった。なにが「まあちょっと・・・」だったのかよく分からない。あとで他の人に聞いたところによると、札幌には金魚の釣り堀があるとのことだ。オホーツクは寒すぎて金魚も暮らせないのか。

さて、富士五湖は河口湖に着き、さっそくロイヤルホテル前のワンドで釣りを始めた。ライトラインのフローティングラインで小さなフライを水面下でゆっくり引いてくればブルーギルはいくらでも釣れる。オホーツクの男もギルを釣り、「うっわ、きもい、きもいっす」と大騒ぎだ。なかなか失礼な男だな。

途中、河口湖漁協のおじさんが現れて「券を確認します」と言って来た。当然、朝いちばんで対岸の漁協にある自動販売機で遊漁券と遊漁税を買ってある。ジャケットにつけてある券を見せたところ、不審そうに「どこで買ったんですか」と来た。「漁協です」「はあ?」「ハワイのワンドにある漁協の自販機ですよ」「じゃあ漁協だねえ」と、意味不明の会話を交わした。

この際言っておくと、河口湖は全国で唯一「遊漁税」などといって釣り人から一日200円もの税金をとっているくせに、はっきりいって湖岸の環境は最悪である。ロイヤルワンドは放流バスの釣り場として有名で、全国から釣り好きの少年少女が集まってくるが、夏場の湖岸は、波打ち際に打ち上げられたまま放置されているバス、コイ、ヘラなどの死骸の腐臭で鼻が曲がりそうだ。これで「釣り客の皆様方から徴収しました貴重な税収を今後とも、湖畔の環境整備、環境保護に役立てます」などとよくも恥ずかしげもなく言えたものだ

河口湖漁協は特別徴収義務者として河口湖町から税金の徴収を委嘱され釣り場としての河口湖を管理しているわけだから、湖を気持ちよい状態に維持する義務がある。湖岸に転がっている腹が膨張したバスの死骸をまたいで歩き、きちんと券を買っている釣り人にごう慢な態度で接する漁協組合員なぞは論外だと思うがいかがか。私は遊漁税導入時の河口湖町税務課にインタビューをした(『フライの雑誌』55号)。「なぜ釣りに税金をかけるのですか」という問いに対して税務課の担当者は「気持ちのよい河口湖をつくるためにお金が足りないのです」と答えていた。あれから8年「まだお金が足りないのです」とでも言うのだろうか。私は河口湖で釣りをするたび、釣り場の管理のわるさについて漁協にひとこと文句を言っている。が、やはり今回の河口湖も毎度変わりのないカタストロフ状態だった。河口湖漁協と河口湖町は観光客からカネをとることばかり考えず猛省してほしい。

いまの河口湖には琵琶湖水系原産のハスが大量に繁殖している。各流れ込みには何百匹という単位のハスが群れをなしていた。特定外来生物対策だとかで河口湖の流出口には環境省のお達しにより「バスが逃げ出さないよう」三重のネットが張られているはずだが、もっとずっと根本的なところで、むちゃくちゃなことになっているように思う。根っこを正さずに表面だけ塗り込めるのを偽善だとか不正義という。

オホーツクから来た男には、ブラックバスやヘラブナの死骸がまるで墓場のようにごろごろと転がる釣り場に連れてきたことで、気分悪い思いをさせてしまったかもしれない。でも腐臭漂うロイヤルワンドから逃げ出し、北岸の流れ込みへ移動してからはまずまずのさわやかな釣りとなった。じつは私は、オホーツクから来た男がオホーツクから来る前から、彼には河口湖で釣りをしてもらうおうと決めていた。だって私は子どものころから河口湖で釣りをしていて、今でも河口湖が好きなのだ。