大阪梅田の阪神百貨店内にある阪神百貨店つり部さんは、フライフィッシング用品を扱う店の老舗だ。開業は1941年(昭和16年)と聞いていたから、全国的にも一、二の長い歴史がある。
私は6年前、『フライの雑誌』第63号の「特集◎いつだって初心者時代」の記事中で、阪神さんを紹介させていただいた。すると雑誌が出てすぐ、阪神の店長さんから取材のやり方と書き方についての、きびしいご指導の電話をいただいた。私は他意がなかったことを謝り、店長へお詫びの手紙を書いた。
当時『フライの雑誌』の編集人になりたてだった私は、書き手の考え方と書かれる側の受け止め方には往々にして違いがあることを、阪神の店長さんに教えられたと思っている。それからは、『フライの雑誌』の追加や単行本の注文など、店長さんから直接お電話をいただくようになった。とりわけ毎年の「『フライの雑誌』オリジナルカレンダー」は、数百部ずつの単位でご注文をいただいてきた。
その阪神百貨店つり部さんが閉店されることになった。釣り具業界は不況といわれるが、老舗で安心感があり、知識が豊富で情報も早い阪神さんの経営は、安定していたと思う。
じつは、第63号の記事で店長に叱られてから半年くらいして、私は大阪へ阪神さんを訪ねていった。お店で買い物をしつつ再度謝ると、店長はニヤッとして、その頃出たばかりのマテリアルを「これ使ってみなはれ。」と言って、私の紙袋に突っ込んでくれた。
帰京した私はそのマテリアルを使ってストリーマーを巻き、横浜港でシーバスを釣った。さっそく店長に電話して「アレで釣りました。」と報告すると、店長は「そうでっか。」と言って、電話の向こう側で(たぶん)ニヤッと笑った。
阪神百貨店つり部さんは9月8日までの営業ということだ。