下野新聞さんの連載企画記事「グラバーへの手紙」を紹介します。
1月3日~7月2日の毎週土曜日、全27回掲載。福島第1原発事故から5年後の奥日光の現状を、かつて中禅寺湖畔の別荘で避暑生活を送った貿易商トーマス・グラバーに手紙で報告する形で報道
(下野新聞7月21日 朝刊)
紙面では全27回。現在、下野新聞さんのウェブサイトで17回目までを公開中です。
取材先には、水口憲哉さん、坪井潤一さん、東知憲さんのお名前もあります。
第5回「食性の違いで濃淡鮮明 ヒメマスは基準以下なのに」を以下一部転載します。
拝啓 トーマス・ブレーク・グラバー様
事故から日がたつにつれ、同じマス類の中でも魚種によってセシウム濃度の違いが目立つようになってきました。
明確に濃度が下がったのはヒメマスです。水産庁の放射性物質調査で2014年4月以降、100ベクレルを超えたことはありません。一方で濃度が横ばい状態なのはホンマス、淡水最大級で全長1メートル以上にもなるレイクトラウト、そしてどう猛な性格で斑点模様が印象的なブラウントラウトの3種です。
欧州の釣り人に人気のブラウンが中禅寺湖を泳いでいるのです。英国育ちのあなたが知ったら喜んでくれるかもしれませんが、残念な事実も伝えなくてはいけません。ブラウンは事故後に100ベクレルを下回ったことが一度もなく、私たちの大きな頭痛の種となってしまっているのです。
汚染の濃淡は、食性の違いに由来するようです。…対して、ブラウンたちのように他の魚を積極的に食べる魚類は汚染レベルが高い傾向にあります。これは魚に蓄積されたセシウムを取り込んでいる結果と考えられています。さらに、大型魚が餌とする昆虫やハゼ科のヨシノボリ類、エビ類などのセシウム濃度がなかなか下がらないことも、濃度が高止まりしている背景にあるようなのです。
生息水深や寿命の違いを、汚染の度合いと結び付ける研究もあります。水や泥の濃度は水深が深いほど高くなり、魚は体が大きく高齢であるほどに代謝が遅くなります。ブラウンは深い場所を泳ぎ、大型で長生きもするので、セシウムを蓄積しやすい魚種といわれます。東京海洋大名誉教授の水口憲哉(みずぐちけんや)さん(海洋生態学)は「今回汚染された湖では、中禅寺湖のブラウントラウトへの影響が最も長引くかもしれない」と警告していました。
魚の持ち帰り禁止が終わる見通しは全く立っていません。地元には「ヒメマスだけでも」と魚種を限定した解禁を望む声もありますが、国が認めるかどうかは不透明です。ブラウンたちの濃度が下がらない限り、おいしくて有名な湖育ちのヒメマスを食べられない状況が続く可能性があります。…「マス釣りの聖地」と呼ばれるゆえんとなった魚種の幅広さが、こうした制限を長期化させる要因の一つになっている…。なんと皮肉なことでしょうか。
1.制限続くマス釣りの聖地 あの事故から5年 伝えたい今
2.霧の発生も汚染に影響か 放射性物質 この地に降り注ぐ
3.閉じた湖 長引く宿命に 線量低下 ただ待つしか
4.代謝遅く「蓄積」の連鎖 海水魚と条件違う淡水魚
5.食性の違いで濃淡鮮明 ヒメマスは基準以下なのに
6.伝統死守へ苦渋の選択 釣り人監視する悲しい光景
7.豊かな水、織りなす風光 かつて険しい渓谷だった
8.開山1250年 偉人に光 戦場ケ原伝説 今も色あせず
9.「登拝」の歴史綿々と 神仏宿る信仰の山々
10.逆境乗り越え、新時代へ 二社一寺から観光客が消えた
11.あの日の教訓 胸に刻む 類を見ぬ「巨大治山」
12.国際避暑地の面影 今も 夏湖畔に外務省がやってきた
13.華麗 優雅な湖の象徴 釣りと並び立つ水上レジャー
14.忍び寄る温暖化の影 中禅寺湖「完全結氷」幻に
15.「動植物の宝庫」激変 シカ急増が引き金になった
16.希少野生鳥獣の体内にも 生態系循環する放射性物質
17.効果見えず 進まぬ除染 森林にとどまるセシウム
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好企画。必読記事です。