釣り人がいくら腕をみがいて道具にこだわったところで、釣り場がなくなったらどうしようもない。メーカーはスクールやって、新しい道具を作って売ったところで、どこでなにを釣ればいい。観光業者があの手この手でがんばって釣り人を集めても、放射能で全てがおしゃかだ。イワナやヤマメを増やそうと努力してきた水産研究者も、なんのために増やすのか分からない。川で遊ぶ子どもたちの歓声が聞こえない。
河川がいったん放射能汚染されたら、数十年がたっても魚の汚染は消えない。チェルノブイリ事故で明らかだ。かといって河川や山を除染するのは不可能だ。きわめて残念なことだけれど、福島第一原子力発電所の事故で放射能汚染された山や川、そしてそこに棲んでいる魚たちは、ぼくたちが生きている間はもとには戻らない。
だから、せめて、もうこれ以上の放射能汚染を引き起こすような原発はやめましょう、という結論だ。ごく単純な理屈だ。そもそも原発が出す核のゴミ捨て場さえ決まっていない。
こういうことになった根本要因を見つめなおさないと、本当に釣り場がなくなる。根っこを見つめてこなかったら、こうなった。私たちの代で日本の釣り場をなくしてしまっていいはずがない。
チェルノブイリ事故および、世界各国の原子力施設による淡水魚の放射能汚染のデータは、たくさん残されている。日本ではほとんど研究されてこなかった。そこで世界の淡水魚汚染のデータを読み解いて、日本の淡水魚の現状を知り、未来を予測する。
フライの雑誌社では日本と世界の淡水魚と放射能汚染について考察した、水口憲哉氏の書き下ろし新刊、選ぶべき未来は森と川と魚たちが教えてくれる。─『淡水魚の放射能 川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』を出版しました。