前略おふくろ様。

『フライの雑誌』次号第87号に「今年釣った魚、釣れなかった魚」という記事を書いた。『フライの雑誌』編集部が2009年のこれまでに出かけた釣りの数々のシーンを、写真とメモで紹介している。編集部の日常の動きそのままながら、じつに無軌道で無計画で非生産的だ。仕事と遊びとプライベートがぐっちゃぐちゃで、ウルトラセブンのオープニングの背景のようである。

こういう頁を作ると、また誌面の私物化ダとか言ってくる方がいらっしゃるかなあと、少し不安。でもそういう方に限って熱心な読者じゃあなかったりするから、あまり気にしないほうがいいよ、と、私の人生のとある大先輩が教えてくれた。だから気にしない。

今回の記事は締め切り前の2日間で作ったにしては、かなり楽しくできた。ただ本人が楽しいと思っているだけで、読者に楽しんでもらえないと意味がない。でも読者全員に喜んでもらえる記事なんか、どれだけ才能のある名編集者でも作れるものではない。迎合しようとする姿勢はすぐにそれと喝破されて自分の首を絞める。

今はむかし雑誌という媒体が世の中に登場したとき、右も左も上も下ものごった煮が喜ばれた。談論風発、百家争鳴。でもこれだけ皆さんが疲れている現代に、昔ながらのごった煮が社会から求められているかと言えばそうでもない気がする。つまり、結局、いまボコボコと老舗雑誌が休刊し、表舞台からの退場を余儀なくされているのは、世間の雑誌への関心が年々薄れていっているからに他ならない。じゃあいっそ地下へ潜るのかと。うちはほぼ潜ってるけど。そんなことないけど。

もっとも市場分析とか経済効率だとかそんな勝間和代なことを言い出したら、社会の流行や規範からはもともとズレにズレまくっている『フライの雑誌』なんて、とっくに消えてなくなっているはずだ。それがいまだに生かされていて、来年創刊23周年を迎えるということは、ムダのない人生なんて息苦しくてすぐに窒息してしまうと思っている層が、世の中にはたしかにいらっしゃるということでもある。だから、『フライの雑誌』を待っていてくださる方が少数でもいる限りは、発行のペースが落ちても作るし、作りたいわけで。

いまさりげなく「発行のペースが落ちても」と予防線を張ってみた。『フライの雑誌』次号でそこらへんの方針転換を発表します。つまり、結局、少々ループ気味の自問自答でした。

『フライの雑誌』次号は11月28日の発売になりそうです。前略おふくろ様。今度の号は今までで一番スゴいです。