「新鮮なヒラスズキの刺身が食べたかったなあ。」
実家に戻った僕が風呂に入っている間、お父さんが晩酌しながらこんなことを言っていたと弘子が教えてくれた。
「けっこう、期待していたみたいよ。」
〝釣りの仕事で生計を立てています。〟などと豪語していたくせに、釣りに出かけて手ぶらで帰ってくるとは、情けない。こんな釣れない男にかわいい娘を預けて大丈夫なのか。やっぱり娘はやれん! となったらどうしよう。
僕の中で何かがかたまった。
(『山と河が僕の仕事場 頼りない職業猟師+西洋毛鉤釣り職人ができるまでとこれから』(牧浩之) 32頁)
分かる、分かるなあその気持ち。という一日だった。