4.26「水産分野における産業管理外来種に関する関係者との意見交換会」のためのテキスト整理

水産分野における産業管理外来種に関する関係者との意見交換会
遊漁関係者、魚類研究者、漁業・養殖業関係者対象
4月26日(水)13時半から 新橋航空会館

もともとその地域にいなかったのに、人間の活動によってほかの地域から入ってきた生物を外来種といい、特に注意が必要な、我が国の生態系等に被害を及ぼす、または及ぼすおそれがあるものは我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(※1)(以下、「リスト」という)として整理されています。

本リストには外来生物法で特定外来生物に指定されているブラックバス等も掲載されていますが、ニジマス、ブラウントラウト及びレイクトラウトは、本リスト及び外来種被害防止行動計画(※2)において、産業において重要で、代替性がなく、その利用にあたっては適切な管理が必要とされる産業管理外来種(※3)に分類されています。

水産庁では、都道府県や研究機関などの協力を得て、これら3魚種の分布調査や産業利用の実態把握、科学的情報の集積等を進めてきたところです。これまでに得られた知見を踏まえた、水産分野における産業管理外来種の管理の考え方等について、遊漁や漁業(養殖)の関係者、研究者などの参加の下、意見交換を行います。

意見交換会の議論の呼び水になりそうなテキストをメモした。
(引用先発言者敬称略)

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日本魚類学会 市民公開講座 2016
魚類にみる最新の外来種問題 2016年8月27日(土)

セイヨウオオマルハナバチと養殖魚としてのニジマスという定義に照らすと、逸出防止という適正管理を条件に合致する部分がある。しかしブラウントラウトについては漁業権水域数が限られる一方で、自然水域への私的放流由来と推測される分布拡大と生態的影響が憂慮される状況は、産業管理外来種として適正管理を求める状況とはほど遠く、緊急対策外来種のオオクチバスと同様の状況にあり、特定外来生物への指定を含め、今後の検討が求められる
(中井克樹)

野生型は日本在来系統に、飼育型は海外からの導入系統(つまり外来魚)にほぼ対応する
(馬淵浩司)

環境保全や環境教育を目的とした善意の放流を含め、コイの無秩序な放流を規制する必要があります。水産放流についても、放流の是非や放流の個体数について十分な検討のもとに実施する必要があります
(松崎慎一郎)

(ニジマスとブラウントラウトを産業管理外来種に指定したことは)拡散したこれら外来種の対策を放棄する言い訳を公言したこと」「生物多様性国家戦略2012-2020も閣議決定された」「外来生物による生態系被害の防止や生物多様性の保全に真逆の方向に進みかねない
(谷口義則)

バス、ブルーギルや外来サケ科などの定着を正当化する話題のそ上にしばしば乗る商売効果に加えて、新たな遊漁として社会的・文化的に成立し得るという根強い心情がある

彼らの原風景をどのような根拠をもって、説得的に改正あるいは否定できるのか。これは実はそう簡単ではなく、そこには社会科学的にも検証する論点がある。現在の人工的要素に満ちている環境によって画一的に急造され、低年齢から触れる擬似的な自然体験のなかに、昨今のバーチャルゲームと類似のものを見ることは容易だろう。

著しく人工化する環境の中で、その実態に即した自然観を模索しつつ、生物多様性の健全や生態系サービスの充実に向けて、負け戦の多い保全活動を粛々と続けていく覚悟の存在を確認したい
(森誠一)

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日本魚類学会 公開シンポジウム
第3の外来魚問題」―人工改良品種の野外放流をめぐって―
2017年7月15日

外来種と在来種は国境の内外で区別するのではなく,個々の種の自然分布域の内外で区別するべきである。このことは日本在来の魚類であっても従来の分布域を超えて他地域に移殖されれば外来魚に転じることを意味し,これらは「国内外来魚」と呼ばれる。

交雑または選抜により作出された人工改良品種が,さまざまな目的で無秩序に放流されてきた経緯がある。それらの自然環境への影響は小さくないものと危惧され,人工改良品種は,国外外来魚,国内外来魚に次ぐ,いわば「第3の外来魚」として位置づけられる。

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生態系に配慮した増殖指針作成事業報告書
産卵床造成による資源増殖をめざして
2010年3月 水産庁

無秩序な放流は、放流先の川や湖に在来個体群(天然魚、原種あるいは地付きの魚と呼ばれる魚たち。川や湖、地域ごとに遺伝子が固有の魚たち。)が生息している場合、放流された魚と交配して在来種の保全に影響してしまうこともあります(沿岸沖合課課長 長谷成人)

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水産庁長官通知 注意事項
「漁場計画の樹立について」
2012年6月8日 水産庁長官

遺伝的多様性を維持した増殖を推進するとの観点から、人工ふ化放流、稚魚又は親魚の放流に際しては、当該河川湖沼における在来種の繁殖保護に留意してください。

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農林水産省年報 2014年

生物多様性国家戦略2012-2020」(平成24年9月28日閣議決定)において、さけ・ます増殖事業の推進に当たっては、「北太平洋の生態系との調和を図り、生物として持つ種の特性と多様性を維持することに配慮する。」とされている。このように、さけ・ます資源の持続的利用を図るとともに、その適正な資源管理を推進することが重要となっている。

平成26年度においては、広域的に連携して行われるカワウの生息状況調査や追い払い・捕獲、外来魚駆除に対する支援、漁業者が取り組む生育環境改善の活動や内水面生態系の復元・保全に関する幅広い理解と協力を促進するための実践的な取組に対する支援を行った。さらに、効率的・効果的な外来魚の駆除を推進するための抑制管理手法の開発、

放流種苗が放流後も再生産に寄与するための放流種苗の育成手法開発

多種多様な生物の産卵・生育の場であるとともに、有機物の分解等の物質循環を担う場である藻場・干潟の漁場環境や生物多様性を維持・向上させるため、現場で活用できる簡易な生物多様性評価手法の開発を行った。

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ブラウントラウトとオオクチバスはどこが違うのか

琵琶湖産アユの全国への放流と生物多様性との関係

内水面漁業は地域個体群保全に資するか

種苗放流事業と生物多様性との関係

水産業にとっての生物多様性とは何か

サケ・マス増殖事業(大量種苗放流)の未来は

栽培漁業と生物多様性との関係

「産業管理外来種を守っていく」とは、なにから守っていくのか

生物多様性を水産業(遊漁)の視点から議論する場はあるか

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生物多様性絡みになると目がすぐ△になって、現実と乖離した極端なことを熱く語る人々を、今後は個人的に「攘夷派」と呼ぶことにする。

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外来魚と水産・遊漁をめぐる社会の動きは、ドタバタ感がつよい。水産サイドにとっては、生物多様性保全と口にした時点で、今まで先人が積み重ねてきた水産的価値観を否定せざるをえない。そんなことはできないだろう。ではどうするべきか。生物多様性の考え方は20世紀末に登場した新しい価値観だ。(1993年の生物多様性条約に始まる。ちなみに米国は批准していない) 水産庁は今年2017年、産業管理外来種についての公開意見交換会を開催している。このような企画を水産庁は今まで行なってこなかった。遅いけれど前進だ。21世紀の水産業、遊漁のありようについて、社会科学的な観点からの公的な議論の場が危急に求められている。(堀内正徳 フライの雑誌社編集部)

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> 【特別公開】 産業管理外来種とは何じゃらほい 国策で増養殖が奨励されてきた外来種、ニジマス(水口憲哉) 

> 【特別公開】 人新世の現実と内水面の釣り 『外来種は本当に悪者か?』を読み解く①(水口憲哉)

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水産庁Facebookから
こと外来種絡みの話題になると、日本の自然の現状を知らず、自分の頭で理解するための努力もせず、議論のための基本的な知識もないと思われる方が、なぜか前に出てきて政府見解に沿った自説を滔々と語りたがるのは不思議だ。

魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか 水口憲哉(著)|ブラックバスは、濡れ衣だ! 異色のベストセラー
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桜鱒の棲む川 水口憲哉(2010)
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『淡水魚の放射能 川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』(水口憲哉=著/フライの雑誌社刊)
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