スノーピーク&ティムコさんから初心者さん用フライセットが新発売(本体価格¥40,000)ということで、フライの雑誌-第99号特集◎はじめてのフライロッド! 座談会を公開します。(2020年7月10日)
定番の〝ライン二重折り〟を用い「なるほどねえ」と言いながら、ガイドにラインを通していく二人。この時点で二人ともなぜかニッコニコ。見よ、おっさんのこの無防備な笑顔を。笑顔は人を幸せにしてくれる。たとえそれがおっさんの笑顔でも。
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フライの雑誌-第99号の特集◎はじめてのフライロッド!(2013年3月発行)
〈市販フライセット振り比べ Ossan Meets FLYROD〉
各社から市販されているフライロッドとリールとラインの〝フライセット〟を、初心者のおっさん二人とベテランと編集部が釣り場で振り比べ、素直な感想を述べあうという、危険な企画。比べたフライセットは、以下の四社。
オフト フライセレクションFS-P34
5ピースパックロッド。小物、フライ3つ付き。リールにラインとバッキングは巻いていない。唯一アルミケース付き。参考価格23,100円ダイワ シルフF-834 COMBO-F
ロッド、リール、竿袋セット。あらかじめラインを巻いてある。つや消しのリールに存在感がある。唯一、外注ではない自社工場製。参考価格25,500円ティムコ BS804-4
4ピース・専用ロッドケース、初心者用スターターDVD付き。リールにはあらかじめラインとバッキングを巻いてある。ライン先端はループになっている。DVDのグレードは高い。参考価格24,150円アキスコ エイシス803
小物、完成フライ、フライボックスまでそのまま釣り場へ行けるフルセットでDVD付き。もっともブランクに張りがあった。参考価格22,050円(価格はいずれも掲載時)
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市販フライセット振り比べ
フライフィッシャーは超人
フライフィッシングは、重いリールを尻につけた短い竿を振って竿の何倍もの長いラインを自在に操り、コンマゼロ何グラムのハリを時には何10mも先までソフトに運び、魚をかけて引き寄せてくる釣りだ。よくよく考えれば超人的な技である。フライフィッシングで使う竿を、わざわざフライロッドと呼ぶのには意味がある。フライロッドに他の釣り具からの代用は効かないからだ。フライフィッシングは特別なのである。そしてフライフィッシャーは超人です。
フライロッドとフライラインとフライリールは、常に三位一体で考えられるべきだ。しかしこれからフライフィッシングを始めようとしている人にとって、フライロッドとフライライン、フライリールのベストなバランスを自分ひとりで選ぶことは、不可能に近い。相談できるショップや友人が近くにいない場合に頼りになるのが、各メーカーが提供している「フライセット」である。とりあえずそれを買えば全部そろって釣りになる。
安かろう、悪かろうの時代
日本でフライフィッシングが急速に一般化したのは1970年代末から1980年代の初頭にかけてだ。国内の市場にはこれからフライを始めたいという釣り人があふれていた。
もちろん「特殊な釣り具」であるフライ道具を触ったこともなければ見たこともない人たちである。そんな彼らへ向けて、安価なフライロッドとフライリールのセットが大量に流通した。情報があまりに少なかった当時、作る方も売る方もフライフィッシングについてよく分かっていなかった。当時の粗悪な商品に苦い経験をさせられた釣り人は、セットものによい印象を持っていないだろう。10代始めに釣りキチ三平の「ニンフの誘惑」(1981年)に感化されてフライを始めた私も、やっとの思いで入手した安価なセットものの〝絶対曲がらない竿〟に死ぬほど苦労させられた。
セットものこそ大切に
バブル期にはしばらく影を潜めていたセットものだが、つい最近ここ5、6年になってまたフライセットを扱うようになったメーカーが増えた。多くの方に気軽にフライを始めてほしいというメーカー側の気持ちの現れだろう。
以前と異なりフライフィッシング文化が成熟した現代において、妙な製品を作って売ったら目の肥えたユーザから批判され一瞬にして悪評が立つ。むしろ、今のフライセットものは、フライロッドとフライラインとフライリールに求められる三位一体の絶妙で重要なバランスについて、各メーカーが自信をもってオススメしている、イチ推しの組み合わせである、と位置づけていいはずだ。
ビギナー用の比較的安価なセットものだから適当でいいだろうではなく、自分で道具を選ぶ基準を持っていない人に最初に持ってもらうものだからこそ、メーカーはいつも以上に気合を入れて品物を提供しなくてはいけない。価格で言い訳はできない。
セットものにドキドキ
編集部では市販のフライセットを実際に手にとって比較することを企画した。リサーチしてみるとフライセットものはたくさんあった。
セレクトした条件は、〈フライロッドとフライラインとフライリールの三点がセットされていること〉、〈番手は#3〜4〉、〈誰でもかんたんに店頭で入手できること〉。『フライの雑誌』ならではの忌憚のない真正直なインプレッションの掲載を前提に、メーカーへ協力を依頼したところ、四社が快諾してくれた。
四社のセットものを手に、年の始めに近郊の管理釣り場に集まった。なぜか気持ちが弾んでいたのは、30数年前にはじめてフライロッドを手にした時のドキドキを思い出したからだろうか。
※記事では参加者は実名です。
(編集部/堀内)
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竿が強い順に並べると、アキスコ、オフト、ティムコ、ダイワ
─GさんとMさんは、今日初めてフライロッドで魚を釣ったわけですね。40歳過ぎてフライフィッシング・バージンを喪失したお気持ちはどうですか。
G ただバクゼンと「どうですか」って言われてもね。
─じゃあ、どれがいちばん振りやすかったですか?
G 僕はダイワ、オフト、アキスコ、ティムコの順番で振りました。ダイワを振ったときはラインの動きをいちいち確認していたんですが、オフトの竿では気にしなくてもよかった。僕の無意識のタイミングに合ってるんだろうな。ラインが竿に乗ってロッドからラインに力が伝わっていく感覚は、ダイワが分かりやすかった。アキスコの竿はとてもシャープで、ルアーロッドのようでした。ルアーキャスティングに慣れている人がスパッと飛ばすにはいい。最後にティムコを振ったら、タイミングのとり方がオフトとそっくりでした。
M 僕はティムコを最初に振ったんですが、教えてもらった通りにやったらなんの難しいこともなく、フライラインを飛ばせました。次にオフトを持ったら、まず竿の長さが短いと感じた。手の延長にロッドがつながっていて、とても軽いと思いました。個人的にはオフトがいちばん。オフトの次はダイワです。アキスコは僕には投げづらかった。水を叩いてしまった。
K 持った瞬間に軽いと思ったのはオフトです。軽く感じるということはバランスがいいということです。あれほどいいとは失礼ながら思わなかった。個人的にはダイワのアクションが好きです。スローとまではいかないけど、個性的な胴調子でした。あの竿ならうるさ型のマニアも喜ぶ(笑) アキスコはロッドに対してラインがすこし軽かったかもしれない。釣りのぼりでテンポよく投げていくのには向いています。
─はじめてフライロッドを持つ人は、投げ釣りやルアー釣りと同じ感覚でラインを前へ放り投げようとしてロッドを振る傾向があります。本当はロッドにバックでラインを乗せてその反発で前へラインを運ぶと考えた方がしっくりくる。ティップ寄りのアクションがアキスコ。ティムコとオフトは中間。ダイワがミドル寄りですね。
K 竿が曲がらないと、ラインが残る感覚が分かりづらくて振りづらいはずです。最初に柔らかいロッドでキャスティングに慣れると、あとから硬いロッドにアジャストするのは楽です。はじめてのフライロッドを基準にして、そこから硬い、柔らかいという判断がされていきます。
単体で売っていてもおかしくない
─外見やパーツ類の印象は?
G 僕はオフトのリング&リング式コルク製シートが苦手です。今日も釣ってるうちに緩んできてしまった。同じアクションならスクリュー式リールシートのティムコを選びます。
M ダイワのリールシートの柄は特徴的ですよね。
G アキスコの薄いブラウン系のブランクは目立ちました。
─グリップはどれが持ちやすかったですか。
M オフトです。
K 僕は手が小さいんだけど、ティムコとオフトが同じ感覚でした。
G ダイワのグリップは大きいと感じました。
─いちばん細いグリップはティムコでした。フライリールはいかがでしたか。いちばん軽いのはアキスコで、ダイワのリールがいちばん重い。
G かっこいいと思ったリールはダイワです。アキスコの削り出しリールもかっこよかった。オフトとティムコは無難な感じ。
M 僕もダイワのリールはかっこいいと思った。どのリールも樹脂製ではなかったから安っぽさは感じませんでした。フライリールって、クリック音があったほうがいいんですか?
K 音がすればラインを引き出した量が分かります。
G どのセットにもそこそこ高級感があって、単体で売っていてもおかしくないと思いました。ティムコのよくできたロッドケースは魅力です。
ルアーとフライはまるで違う
─魚をかけてからのやりとりはいかがでしたか。
M 僕はフライロッドって、弱いものかと思っていたんです。魚へ左右に振られるかと思ったけど、どの竿も魚を引き寄せるのに苦労しませんでした。すごく楽しかった。あんなにたくさん釣れると思わなかったし(笑)
─腰が強いのはアキスコのロッドですね。
K 細いティペットを使うことを考えたら、ダイワの竿の対応力は高いと思いますよ。竿を軽くしたい時にはブランクを薄くしていきがちです。薄いと反発が強すぎる場合がある。ダイワのブランクは厚そうだからためが効きます。
G キャストではかなり感覚が違ったのに、魚をかけてからはどの竿も似たり寄ったりで、どれも面白かった(笑) 魚をかけてからのフライロッドがあんなに面白いとは思いませんでした。フライロッドは出発点から釣り味方向に寄っている気がします。ラインを手で持ってやりとりするので、ロッドの性質をよりダイレクトに感じられますね。その点はルアーとフライフィッシングはまるで違う。
初心者はフライラインを選べない
─フライタックルの象徴的な要素は、フライラインだと思います。フライラインはフライフィッシングでしか使えない。
G フライラインは価格と性能でどれだけ違いがあるんですか。デザインもたくさんある。ロッドやリールだったらグリップの質や表面仕上げ、パーツの品質で価格差もある程度は納得できる。でもフライラインって、あれで10倍値段違いますよ、と言われても…。いままで僕はルアーもエサ釣りもしてきましたが、「どの糸を買えばいいのかわからない」釣りはフライフィッシングが初めてです(笑) メーカーが組んだセットものなら安心感があります。
K 初心者さんが自分でフライラインを選択するのは無理です。値段が高いラインだからどのロッドにも合うかというとそんなことは絶対ない。
G ダイワの竿はよく曲がってくれて気持ちよかったけど、フライラインの質は他のメーカーにくらべると落ちていたと思います。
─ダイワのラインは硬さと表面のざらつきが気になりました。オフトとアキスコには適度な張りがあった。ティムコは滑らかで柔らかかった印象です。
K ラインにはメーカーの好みもでます。ロッドとラインを合わせないと、ロッド本来の能力が出せません。ウェイトフォワードはロッドに重さが乗りづらい。初心者にはダブルテーパーがいいでしょう。
こんなの初めて
─二人とも初めてのフライフィッシングのわりには、すぐに投げられるようになったし、魚もバンバン釣っていましたね。
K フライを覚えるにはまず魚を釣ることです。魚が釣れれば面白くて、もっと知りたくなる。キャスティングも練習したくなるし、結果どんどんうまくなります。
G これまでフライフィッシングを始めようとすると、楽しみの本質に近づくまでに遠回りをさせようとする人が多くて、僕はうんざりだったんです。
K 楽しさを感じる点は一人一人で違いますからね。フライフィッシングには楽しさを感じるアプローチのルートが数多いんです。キャスティング、タイイング、タックル、釣り方など、楽しむ術がたくさんあります。
─同じ一匹の魚を釣るまでに幅広い楽しみ方のアプローチ方法を選択できるのがフライフィッシングだという言い方はできると思います。
G 入り口が多すぎてわかりづらいです(笑) テニスでも野球でも、ボールに力を伝える時は手首のスナップを効かせるのが大事なんですが、フライキャスティングは手首を使うとうまくないという。こんなのも初めてですよ僕は(笑) フライフィッシングは他のどの釣りとも違うという印象でした。
M 僕は今年から本格的にフライフィッシングを始めようと思っています。今日、買いたいタックルが決まりました。自分の腕と一体化したような軽さとフィーリングの、アレです。まああと三回くらいは今日みたいに練習しないと、思ったようには投げられない気がする。練習したいですね。
(2013年1月16日収録)
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コラム1
初めてのキャスティングにはダブルハンドを
○振り比べ企画に協力してくれた池田さんは、フライキャスティングを初めて指導するときには、ダブルハンドロッドを手渡している。
「フライフィッシングの最初の大きな壁がキャスティングです。初心者さんはロッドを頭の上でストップしづらい。ダブルハンドだったら両手で支えられるし、肩で止まるから竿が後ろに倒れません。とくに力のない子どもや女性といった力のない方ほど、ダブルハンドロッドをお勧めします。」
○シングルハンドロッドでも、バットエンドに空いている片手を添えさせて両手で持たせると格段に安定する。小学校低学年の子どもでも10ヤードくらいは飛ばせる。
○フライキャスティングでいちばんまずいのは、手首だけで前後にパッタンパッタン振ること。ラインの重さを感じられずキャストにならない。それを避けるにはどうすればいいかを軸に、あれこれ工夫してみよう。
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コラム2
初心者ほど投げやすいバンブーロッド
○以前も紹介したが毎日新聞の「フライフィッシング体験」の取材のために編集部が用意したグラファイトとグラスとバンブーロッドのセットの中で、8歳の女の子がそれぞれを振り比べた後に、迷うことなく選んだのは、バンブー製のシーズロッド・オリジナル6’8”#2/3だった。ラインが竿に乗る感覚がちょうど気持ちよかったらしい。
○考えてみればスイートスポットが狭い高弾性のパリパリロッドは、初心者には扱いづらいのは当然だ。とくに力のない子どもの場合はラインを「弾く」よりも、「乗っけてよいしょ」の方が楽に決まっている。となれば低弾性で粘りを持ち味としたデザインのバンブーロッドの出番になる。今は気軽で質の高い竹竿もたくさん手に入る。
※本記事中で初心者にも使いやすいロッドアクションに高評価を得ていたオフト社さん(1969年創業)が、2018年4月末で廃業されました。長いあいだありがとうございました。(堀内)
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フライの雑誌社では、ここに来て日々の出荷数が増えています。「フライの雑誌」のバックナンバーが号数指名で売れるのはうれしいです。時間が経っても古びる内容じゃないと認めていただいた気がします。そしてもちろん単行本も。
島崎憲司郎さんの『水生昆虫アルバム A FLY FISHER’S VIEW』は各所で絶賛されてきた超ロングセラーの古典です。このところ突出して出荷数が伸びています。