2013年の3月、初めて池を作ろうと思った。それからすったもんだ色々あった。べつに頼んでないのに近所の子供が体長10センチくらいのヒレナガゴイの子供を連れてきたのが2013年の6月。ヒレナガゴイはすぐさま池のボスに居座った。
川からとってきてせっかく入れたエビをぜんぶ食べるとか、かわいいメダカを追いかけ回して全部吸うとか、底の泥を常に引っかき回すとか、わりと悪逆非道のかぎりを尽くしてくれた。放置して勝手にエコサイクルが回ってくれる平和なアクアテラリウムを作りたかったこちらの目論見は、たかがヒレナガゴイ一尾のために台無しとなった。
昨今ごく一部の魚類オタクが旗を振って、〈コイは外来魚です! 日本の生物多様性を破壊します!〉と騒いでいる。だからなんだよ、まじばかみたい、くっだらなーいと思う。生物多様性大事を言うなら他にもっとやるべきことあるでしょうに。言ってることがオタッキーで極端すぎるために、世間から相手にされていないのもおかしい。ただまあうちの池の現状を考えてみれば、ほんのちょっと分からんでもない。ええ、うちの池の生物多様性はコイで無理です。
とはいえいいかげん、ここ最近はこっちももうあきらめていた。ヒレナガゴイがうちの池に来たのも前世からのご縁かもしれない。まあせいぜい大きくなって、我が世の春を謳歌してくれ。金魚を食べなければがまんしよう。
うちの池に来て6年弱、昨日、そのヒレナガゴイの姿が消えた。
たぶん、時々うちの池のほとりにやってきて、いかにも食べたそうにしていたトリに、食べられたんだと思う。餌やりをひかえめにしていたけれど、ヒレナガゴイは6年間で倍以上の体長に成長していた。トリにはちょうどいい食べ頃に育っていたのだろう。トリ、住宅街の真ん中にあるこんな小さなうちの池に来るなよ。川がすぐそばにあるじゃないか。
ああこんなことなら、ヒレナガゴイが食べたがる分だけ、餌を食べさせてあげればよかった。あいつはいつだって食べたがっていた。かわいそうに。なんで餌を存分にやらなかったんだろう。わたしはひどいやつだ。まさか突然、お前がうちの池からいなくなるなんて思っていなかったんだ。

今思えば君は美しかった。ヒレが長くて。人間が勝手に品種改良した結果の自分の身体を、君はどんな風に感じていたんだろう。

君はペットショップの水槽から、近所の子供に連れられて、うちの池に来たのだった。養魚場とペットショップの水槽とうちの小さな池しか知らずに君の生涯は終わった。

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