黒石真宏さんの新刊『オールド ワークス ─フライフィッシング雑文集─』を読んだ。黒石さんの文章は「フライフィッシング・ジャーナル」の頃からずっと、発表されたものはぜんぶ読んでいる。表現者としても釣り師としても大尊敬している。ビデオ版「忍野ノート」のいかれポンチ具合はまったく素晴らしかった。
ことに、「フライの雑誌」第27号(1994)の連載フライフィッシング中毒における〈ニシジマ〉、〈ライスの一発に賭ける〉の回は、二十世紀の釣りエッセイとして歴史に残る超一級品だった。いまだにふと何かの拍子で思いだして、ぐっとなってしまう。
黒石さんがこれまで各種の媒体に発表してきたエッセイを一冊にまとめた本書は、とくに1980年代初頭の、日本のフライフィッシング人口がもっとも爆発的に増え、そのぶん皆がワケわからなくて右に左に狂奔していた時代を知る者にとっては、ぐっとくるページだらけの最高にエモい本である。
その時代を知らない方は、知らないという理由で、ぜひ手にとってみる価値がある。〈ニシジマ〉、〈ライスの一発に賭ける〉も収録されている。フライフィッシングに狂っている釣り人なら時代を越えて、ぐっとくるはずだ。
まるでイブニングの深い時間、新名庄川合流点の上流、右岸のくぼみに身を潜め、息を殺して自信のフライを下流のライズへ送り込むとき、狙い通りに手元へ何ものかの生命感がぐっとくる瞬間の、あのエモさ。
萌えでもいいけど、えもいわれぬ、唯一無二のフライフィッシング特有のかけがえのない感覚を、本書はいつでもどこでも味わわせてくれる。
本書を通して読んで改めて思うのは、黒石さんは、ほんっとに釣りバカだなあ、ということだ。もう一度繰り返すと、ほんっっとに釣りバカだなあ、ということだ。おそらく言えば言うほど、黒石さんは身をよじらせて喜ぶに違いないから、さらに繰り返すと、ほんっっっとに釣りバカだなあ、ということだ。
(堀内)
「ムーン・ベアも月を見ている クマを知る、クマから学ぶ 現代クマ学最前線」