キンドルの普及とiタブレットの登場により、2010年は電子出版元年と呼ばれている。あと10年もたてば、紙の雑誌なんて「そういやそんなのあったわね…。」という存在になるそうだ。
一応ここで確認しておくと、紙の出版物をつくるには、まず企画を立てる。原稿を集める。リライトする。デザインして、印刷の元になる版下を作る。版下を印刷所に渡して製版し、印刷し、製本、流通させる。いやあ、面倒だ。
いま版下といったが、むかしはまさに紙の台紙に、写植機で打った文字を切り貼りして版下をつくっていた。いまは実際には版下は作らない。そのかわりにパソコン上で「入稿データ」を作り、印刷所に渡す。これをデスクトップバブリッシング(DTP)という。今から約20年前に誕生した技術だ。DTPのおかげで、編集制作の省力化は革命的に進んだ。小社はDTPをかなり早い時期に導入している。
考えてみれば、このDTPの技術革新がなければ、少部数でマニアックな『フライの雑誌』のような雑誌が、現代まで生き残ることもなかったろう。発売中の『フライの雑誌』第87号では、なつかしい1980年代の『Angling』誌を特集した。当時の山田安紀子編集長に、制作現場の殺人的な日々をインタビューして記事にしたが、まさに修羅場と呼ぶにふさわしい印象だった。資金と能力、熱意がなければできない仕事だ。編集者はむかしは超人だったのだ。
おかげさまで『フライの雑誌』の次号制作がおととい終了した。昨日はさっそく近所の管理釣り場へ行ってきた。時々小雪が舞う最悪の状況だったが、島崎憲司郎さんの例のコイルを駆使して、釣り場で一番釣ったった。最悪の状況でこそ威力を発揮するのがこのコイルだ。コイルはとにかく気持ちいいフライフィッシングができる。そしてなにより、ものすごく釣れる。もっと語りたいけど、それをやるとえらく長くなるので、「シマザキワールド11」か次の『フライの雑誌』の特集を見てください。
さて、電子出版元年だかなんだか知らないが、これから先10年の出版界の行く末は、本当のところは誰にも分からない。ましてや『フライの雑誌』の10年先なんて、ルーレットの10個先の目を読むよりもむずかしい。ひとついえるのは、資金と能力はともかく、こんなに面白くて楽しい釣りの喜びを、皆で共有する本を作りたいという思い込みとしつこさに関しては、ウチもなかなかのものだということ。媒体が紙でも電子でも、編集者に必要なそこらへんのスタンスに変わりはないはずだ。そして個人的には、いまや絶滅危惧種な紙の媒体が大好きである。
フライの雑誌社では今年、季刊『フライの雑誌』に加えて単行本を2冊、できれば3冊出したい。あくまで世相に逆行してやるのだ。
釣りビジョンさんの連載コラムにこんな文章を書いた。いつも本の宣伝をさせてくれる釣りビジョンさんにはほんとうに感謝している。
昨日は激しく寒かったが、この半月のあいだ釣りに行けなかった恨みを晴らすかのように、偏執的に釣りまくった。たった半月でしょ、と思わないでもないけれどね。