【公開記事】 メガソーラー栄えて山河亡びる。諏訪湖アメノウオの産卵地が危ない。水口憲哉(東京海洋大学名誉教授・資源維持研究所主宰)|フライの雑誌-第118号 釣り場時評91

フライの雑誌-第118号(2019年10月15日発行)から、巻頭記事「メガソーラー栄えて山河亡びる。諏訪湖アメノウオの産卵地が危ない」を公開します。筆者は、東京海洋大学名誉教授・資源維持研究所主宰の水口憲哉さんです。

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魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか』(2005)
桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』(2010)
淡水魚の放射能 ―川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』(2012)

水口憲哉|フライの雑誌社刊

釣り場時評91

メガソーラー栄えて山河びる。
諏訪湖アメノウオの産卵地が危ない

水口憲哉(東京海洋大学名誉教授・資源維持研究所主宰)

メガソーラー建設計画に直接影響を受ける地域住民の
心配の声が全国に発信された。その意味は大きい。

諏訪湖流入河川のアマゴ

各地のメガソーラー(MS)事業に対して、地元の人々の阻止する取り組みが前回時評後も次々と展開している。

まず伊豆高原・八幡野MSでは筆者も意見書を提出した漁業者やダイビング業者らが建設差し止めを求めた仮処分申請に対し、六月二七日静岡地裁沼津支部が申し立てを却下するという決定を下した。前回述べたように伊東市の意向で工事そのものが二月より中断しているので何を今さらという決定でしかない。

しかし事業者も、伊東市の指示に従い、はい止めましたという訳にもいかず、六月の市議会での議員の援護射撃をもバックにして、七月三〇日には事業者の求めにより市議会で事業者の報告会があった。工事遂行不能になった場合には四〇〇億円の損害が発生すると説明した。

そして翌日、事業者である伊豆メガソーラーパーク合同会社が、建設予定地近くの川に橋などを架ける工事に必要な河川占有許可を市が不許可にしたのは不当として、処分の取り消しを求める行政訴訟を静岡地裁に起こした。第一回口頭弁論は一〇月一一日にある。

いっぽう千葉・鴨川MSについては、千葉県が四月二五日に森林法に基づき、違反した場合は許可取り消しもある四項目の条件付きでMS建設のための林地開発計画を許可し、公表した。これに対し、五月二〇日に地元の漁協や市民団体など計五団体は県庁を訪れ次の内容の申入書を県知事に提出し、三〇日までの回答を求めた。

〝工事の設計仕様について、大規模な山林の埋め立てなど「災害発生要因が満載」と指摘。その上で、工事の際の県農林水産部の監視や他部との連携体制を明示▽事前通告なしの立ち入り検査の実施▽説明会で住民の理解を得ることを許可条件にすることなど〟(朝日新聞千葉版五月二一日)

アクアラインの通行料金の値下げしか自慢することのない森田知事の千葉県では、三番瀬に面する船橋、市川、浦安三市が第二湾岸道路を三番瀬に通すのに積極的だったのに、市民や漁民の長年に及ぶ三番瀬保全運動の結果、これら三市長連名でこの計画に懸念を表明する文書を県知事に提出している。しかし、県は国とともにこの建設推進の姿勢を変えていない。

県は右のMS建設に関する五団体の申入書も無視である。そこで、七月二四日、地域の住民八人が行政不服審査法に基づき、森田健作知事に不服申し立ての審査請求をした。MS開発の許可の取り消しを求めた訳である。

しかし、この審査請求によって計画や工事を停止できる訳ではない。また、原処分に関与した者等が行政不服審査会の審理員にはなれないとの決まりはあるとしても千葉県庁内に審査会が設置されるのでその決定にあまり期待はできない。

ただ直接影響を受ける地域住民が声をあげたことの意味は大きい。実際、八月六日の朝日新聞全国版の〝固定価格買い取り 転換点〟という大きな記事の中で、この鴨川MS関連の二〇行ほどの文章中に、〝ふもとに住む主婦(65)は「各地で自然災害が起きていて、不安だ」。〟とまさに一地域住民の心配の声が全国に発信されるようになった。

この次の日となった八月七、八日に筆者らは次に述べる茨城県十王川における惨状とMSとの関係を鴨川市のMSに反対する漁民や市民に伝えると共に市内を流れる加茂川の釣獲調査を行った。この釣獲調査は同本流筋の十五地点で目視調査を行うと共に堀内編集人がオイカワを釣って確認した。

実は、鴨川市にある安房淡水漁協というのは、ウナギシラス採捕を許可された人々の団体で、いわゆる一般的な内水面漁業協同組合ではない。それゆえ、MS工事地区から加茂川水系への土砂や汚濁水の流入によって侵害される内水面漁業権の設定された漁場というものがない。

そこで、漁業協同組合をつくり、県に漁業権の免許を申請しようということになった。本誌一〇三号のスズキ・イチロー「漁協をつくろう! 内水面漁協の作り方を教えます」等を参考に鴨川市民が漁協づくりに取り組み始めるかはこれからである。

〝自然に優しい「京セラ」太陽光発電が
イワナ・ヤマメを全滅させた!〟

七月二五日発売の週刊新潮(八月一日号)に〝自然に優しい「京セラ」太陽光発電がイワナ・ヤマメを全滅させた!〟という記事が出た。この舞台となった茨城県日立市十王川におけるMS工事と渓流魚との関係の実態について電話取材等によって知り得たことをまとめる。

七月二五日より八月二日までの期間電話取材に応じてくれた方々は、マスコミ関係:朝日新聞、茨城新聞、週刊新潮の三名。茨城県関連:林政課、水産課(二名)、十王ダム事務所。漁業協同組合:内水面(二名)、海面。の計十名。

①最近地元紙ではこの件について全く報道されておらず、週刊新潮独自のレポートである。二〇一七年秋に大雨により十王川への土砂大量流入時には地元紙による報道が起こった可能性はある。なお、三、四ヶ月前にこの件について県に申し入れをした人が週刊新潮の情報源かもしれない。

②二〇一七年秋に海面漁協の人がたかはら自然塾(旧高原小学校を使用した県営施設)より三、四キロ上流の左岸の工事現場を見に行ったら京セラコミュニケーションシステムズの大規模な工事現場があり、数軒の建物と数十人の人々、地面が川のようにえぐれて土が露出していた。大きな風船のようなもので地面を覆っていた。その人に海面への土砂の流入を質問したが答えはなかった。それがあったので現場を見に行ったと考えられる。

③県林政課(森林審議会の担当と思われる)の担当者は一昨年秋に貯水施設ができないうちに予期せぬ大雨が降ったので川に土砂が流れた。現場に三、四回行っており、その後は大きな問題は起こっていないようだ。県営ダム事務所では夏になると六メートル水位を下げるので上流部に土砂が堆積しており、一般の人は大変なことだと騒ぐ、堆砂量がどの位かはわからない。この状態はグーグルマップでも見られる。

④内水面漁協の組合長(自宅は高原)と理事は、週刊新潮はいろいろ間違っている。五年前より組合総会で解散は話題になっている。組合員は一六〇名ほどで、京セラからの一二〇万円は出資金の返却に使える。昨年も今年も県の増殖計画会議の決定通りに放流している。ダム湖に大量の土砂がたまっていることを誰も問題にしないのはとんでもないこと。

⑤県の水産課:まだ解散してはいない。県内では昨年緒川(那珂川水系)の内水面漁協が解散した。十王川漁協の場合MS工事による土砂流入が解散の決定要因ではない。

以上を整理すると、工事中の急な豪雨のため大量の雨水と土砂が十王川に流入し、土砂の多くの部分は中流の十王ダムに堆積し、泥濁りの川水が海にも流入したということらしい。結局、目立った住民による反対運動のないまま、京セラが巧妙に処理し、茨城県が自身の損害を黙認したことにより、十王川漁協も何も言えないということのようである。

茨城県には千葉県にはない森林湖沼税がある。

以上が十王川とMS工事との関係であるがこの記事から二つのことに関心を持ち調べ始めた。

一つは、内水面漁協の解散の実態はどうか。水産庁が出している水産業協同組合年次報告に都道府県別の内水面漁協の組合数、認可、合併、解散の状況が集計されている。最近一五年間の変化は、二〇〇三年に七〇九あった出資組合が昨年は六四七となり、年平均全国で四組合ずつ解散している。

二つ目は、茨城県における森林保全とMSとの関係。資源エネルギー庁ウェブサイトによると、二〇一七年一二月現在の太陽光発電の非住宅(一〇kW以上)における電力買い取りが行われている発電容量が二二四万kWで茨城県が全国一位、二位の千葉県は一六九万kWである。茨城県は日本一のMS県ということになる。このことによりどれだけの面積の森林が毎年伐採されているかの県の資料はない。

いっぽう茨城県には千葉県にはない森林湖沼税というのがある。これにより県民からは年間一〇〇〇円、法人からは県民税均等割額の一〇%を茨城県は徴税している。この税収の用途の主なものは森林の保全・整備で内容としては間伐の実施に対する補助である。具体的には一昨年度税収一七億円の四四%を使って一六五〇haで実施している。

MSとの関係で茨城県における森林による炭素吸収量または森林面積増減の収支はどうなっているのだろう。原子力先進県の茨城県は、福島県のような原発の重大事故を起こさなかった。しかしMS日本一の県というのと今回の十王川について調べていて、突然浮かび出てきた言葉がある。

〝メガソーラー栄えて山河亡びる。〟

茨城・十王川MSによるヤマメ・イワナ生息地への被害は
京セラが巧妙に処理し、茨城県が損害を黙認したことにより
漁協も何も言えないということのようだ。

八幡野や鴨川のMS建設では河川での漁業や釣りへの影響がほとんど問題にされていないが、十王川では大変なことになっていることがわかった。

そこで、前号においてふれた二番目の建設規模である長野県諏訪市と茅野市にまたがって問題になっている霧ケ峰高原近くのMS建設計画のある地域では、河川漁業や渓流魚への影響がどうなっているのかを調べてみた。最初に目についたのが八月八日の長野日報の記事〝四賀ソーラー計画地内「諏訪マス」の産卵地〟であった。

諏訪湖流入河川

これは諏訪マスを後世に残そうと活動しているグループ「諏訪マスプロジェクト」の小松さんと中村さんが七日、小松さんが経営する諏訪市渋崎の釣具店で会見を開き、MSの計画地内に諏訪マスの最重要の産卵地と縄文アマゴの生息地があることから、対象となる河川を明らかにした上で開発をやめるよう求めることにしたというものである。

この諏訪マスは拙著『桜鱒の棲む川』の九六頁でその行く末を心配したアメノウオである。

「それは地元で一般にアマゴと呼ばれているアメノウオである。天竜川の最上流域に生活していたサツキマスまたはアマゴが、フォッサマグナと関連して断層湖である諏訪湖に閉じ込められたのである。アメノウオの漁獲量は一九〇五年の四〇七トンが最高である。現在は専門に狙って商売になるほど生息していない。というよりはワカサギの捕食者として害魚視する人もあり、その存在を研究者もおおっぴらにしにくい。研究者や環境省に無視されている絶滅危惧種である。」

これを琵琶鱒にならい諏訪マスと呼び、関心をもつ地域の人々が守ろうとしている。

諏訪メガソーラー建設計画で危機にさらされている
諏訪湖のアメノウオ(諏訪マス)の産卵地を守ろうと
漁協と地域の人々が立ち上がった。

諏訪湖漁協も湧水への影響を心配し、河川の諏訪東部漁協とともに一昨年九月より署名を集め反対を表明している。
そのホームページのタイトルに〝日本最北端在来原種 縄文アマゴの里〟とある諏訪東部漁協に連絡した。十王川の話をしたら週刊新潮はすでに読んでおられた。そこで、右にまとめた十王川の実態についての資料等をお送りすると共に今後連絡し合うことにした。

このように霧ケ峰高原の諏訪四賀MS問題については、地域の内水面漁協やアマゴ、マスそして釣りに関係する人々が強い関心をもち、熱心に反対運動に取り組まれていることがわかった。

現在長野県では県独自の環境影響評価の手続きにより、株式会社LoooPより提出された「諏訪市四賀ソーラー事業(仮称)環境影響評価手続準備書」が縦覧され、七月に諏訪市と茅野市で、その説明会が開催され、八月一五日までこれに対するLoooP長野支店への意見書提出が行われた。先の諏訪マスプロジェクトの意見書提出と記者会見もその一例である。茅野市長意見の内容がネットで公開されているが厳しく理路整然としたものである。

いっぽう長野県環境影響評価技術委員会は八月二一日水象部会の第一回会合を県庁で開いた。ここでは湧水や水道水源への影響の評価についてこれもかなり厳しい指摘がなされた。

長野県では全体的にそれぞれの地域が各自の関心から事の本質をよく見切っている。その結果企業もそれに対応させられそれなりに勉強し取り組んでいる。結局、MS建設は無理であると地域住民からわからせられてしまうのではないかと考えられる。

ここで十王川の事例等から諏訪東部漁協の主な河川である上川の支流横河川で起こると考えられることを検討してみる。

八幡野MSの例では、基本的に大量の樹木を伐採することにより豪雨時の雨水が裸地の土砂とともに大量に低いところにたまる。そこでMS事業者は大きな貯水施設や沈殿池を数カ所造設し、流出雨水や土砂に対応するので周辺河川や海へ土砂水が流入することはないと静岡県には言っている。しかし、十王川のように、それらの施設の完成前に大雨が降ってしまえばどうしようもない。

漁協は拒否するべきである。
ダムを川につくらせないのと同じことである。

そういったことを検討して諏訪市四賀MSの場合は横河川上流域をC調整池としてそこの河床を一〇メートルの深さで二百数十メートル掘ってダム化し、貯水と沈砂の働きをさせようとしていると考えられる。とんでもないことである。漁協は拒否するべきである。ダムを川につくらせないのと同じことである。

現在、C調整池を掘り下げたぼう大な量の残土をどこにもってゆき盛土するかが県をはじめ多くの人々の関心を集めている。しかし、そのことや環境影響評価の流れに乗って検討する前に、漁業権漁場をC調整池にすることを諏訪東部漁協は拒否すべきだし拒否できる。

その場合この漁協が横河川の上流部にどの程度まで漁業権があるのか。諏訪湖に注ぐ川の本流と支流という定義では限りなく支流の上流まで含まれる。しかし、そのあたりにはアマゴを放流していないので在来のアマゴ(縄文アマゴ)が生息している。放流せず、増殖義務を果たしていないその支流には漁業権がないという理屈もある。しかしそれは誤りである。在来種を保全し、生物多様性を維持し、漁協の多面的機能を充分果たしている。(55ページ参照)

最後に〝日本最北端在来原種縄文アマゴの里〟を考える。

諏訪湖北岸の砥川にも在来アマゴがいるので最北端ではないという人もいるが、些細なことはどうでもよい。漁協では在来のヤマメやアマゴの研究をしている宮崎大の岩槻教授に判別を依頼してのことなので在来は確かなようである。温暖化した約六〇〇〇年前の縄文海進の時期に成立したとの推察に基づく命名かもしれないが、この点はサワガニ(〈フライの雑誌〉第118号・120ページ参照)のように簡単ではないのでもう少し検討を要するかもしれない。

(この項 了)

諏訪湖流入河川

cf.桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!
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「ダムをやめ、川を川として活かす。乱獲はしない。何もしなければサクラマスは増える。」

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