桂川解禁日/年上のお姉さん

大月の有名ポイントへ

昨日3月1日の解禁日は予定どおり山梨県の桂川へ行った。湧水の多いこの川ならいまの時期でもヤマメの動きはいい。それに『フライの雑誌』に出てくれたヘンタイ桂師に、桂じゃ解禁からいきなり瀬でバンバン釣れますよ、と聞かされては行くしかない。

朝まずめはエサ釣り師が多いだろうし、フライフィッシングには水がぬるむ昼前ごろがいいはずだと、のんびり家を出る。朝型に矯正しようと思いつづけてもいっこうに夜型から抜けられない身には、こういう釣りはありがたい。逆に朝一番を逃したらどうにもならないワカサギ釣りはツラい。だから河口湖ワカサギは惨敗つづきなわけだ。

春がすみの中央高速を気分よく一人で走ってゆく。BGMにはキャンディーズを選んだ。密室をいいことにがんがん大音量にしてのりのりで走っていたら、降りるはずの上野原インターを見すごした。しかたなしに大月インターまで走る。上野原から順繰りに上流へのぼってゆく当初のプランをこの時点で変更し、まずは大月インター付近のめぼしいポイントから探ることにした。

結果的にはこのことが奏功した。上野原あたりの国道20号は工事をやっていて、あとから地元の方に聞いたところでは渋滞でぜんぜん車が動かなかったとのこと。5日くらいまでは工事をしているらしい。大月市中心部の超有名ポイントに入ると、前日の雨の影響でか川はかすかに白濁しているものの、心配した増水はほとんどなし。これなら釣りになる。

シマザキ・コイル

さっそく、『フライの雑誌』第88号の「シマザキ・ワールド12」にも登場した「コイル」仕掛けに、#18のニンフをセットして釣りのぼっていった。ツンと気持ちよくコイルをひきこんで、まずはハヤ、ついで小さいヤマメがかかった。昼過ぎになると風が強くなり、その風に誘われるように魚たちが水面を向いてきた。エルモンっぽいダンがバサッと食われるのを見たのでドライフライに変更。

コイルシステムの考案者は言わずと知れた島崎憲司郎さんである。コイルを使った水面下の釣りはとてもシンプルで繊細だ。キャスティングもスムーズ。見てくれがスマートでいかにもフライフィッシングっぽいのはうれしい。またライズの状況へ応じてドライフライへもかんたんにチェンジできるのは大きなメリットだ。通常のテーパーリーダーよりもコイル部がスプリングになる分、適度なスラックをかませたプレゼンテーションがうまくできる。

面倒くさがりの私は仕掛けをそのままでフライだけ交換しているだけだがあまり問題はない。新装版『水生昆虫アルバム』の特別付録「シマザキ・ワールド10」で、島崎さんがわざわざイラストを描いて解説してくれた緻密なシステムを愚弄するかのようないいかげんさだが、これでもよく釣れるのである。自分が上手になった気分である。

禁断のプールでヘンタイ会合

ダンが食われたのを見たのにあえてガガンボパターンを結んだ。だって桂のダンの釣りはむずかしいんだもの。#15のガガンボを瀬脇のヒラキのライズに流してなんとも美しいヤマメを釣った。一息ついていると、瀬尻で小さなスプラッシュライズがパンパン、パンと起こった。ここは桂川なんだからそんなのを狙っちゃあダメだと分かっているがついはまってしまい、小一時間やってやっぱりとれなかった。まあいいか。今年の解禁はもう満足だ。

とかいいながらしっかりイブニングも釣った。すっかり陽が落ちて真っ暗になってから、「禁断のプール」でヘンタイ桂師の皆さんが会合を開いているというので、私も合流させてもらった。今年もヘンタイな日々が始まったということだ。

しばしヘンタイな世界にたゆたった後、帰宅の途へついた。今日は充実した一日だった。BGMはふたたびキャンディーズ。今年の桂川の釣りのBGMは、しょっぱなから縁起のいいキャンディーズに決定だ。そのうち尺ものも釣れるだろう。

60アップをロックオン

キャンディーズで私の一番好きな曲は『年下の男の子』である。曲中でうたわれているとおぼしき15歳くらいの男の子だった私は当時、ハンカチをよごして丸めたり、ネイビーブルーのTシャツを着たり、あえてポケットのボタンを引きちぎったりした。

そんなせつない努力をしてまで周囲の「年上のお姉さん」の気をひこうとしたのに、うまくいかなかったのは今でもかなしい。リンゴはきらいだから頬張れなかったのがいけなかったのか。いっそ今から15歳の自分のリベンジをしてやろうか。

しかし「歳をとればとるほど上方向にストライクゾーンが広がる」というアインシュタインの相対性理論にもとづくと、40歳を過ぎた中年のいまの私の「年上」は、60アップのお姉さんまでロックオンしてしまう。

そんなどうでもいいことを思いながら中央道をひとりで走って帰った。

コイルはこんな感じ。「シマザキ・ワールド11」参照。
いつもワカサギ仕掛けを教えてくれる上州屋のAさんに川で会った。今日はフライマンのAさんはいわゆる「釣る男」だ。