面倒くさがりのタイイング

せっかく釣り堀を管理しているサトリの妖怪に会いに行くのだから釣りもしたい。だから今夜はフライをタイイングする。

池の釣り堀ということで、この季節の水面がらみのフライは桂川用フライで何とかなる。もし沈めて釣りたくなったときのための毛バリをいくつか作っておきたい。私の基本はウルトラ面倒くさがりである。かんたんに巻けてよく釣れるので最近お気に入りの「クロスオーストリッチ」を巻くことにした。『フライの雑誌』最新号でも紹介した島崎憲司郎氏のパターンである。フックはTMC108-SPBL#12。マテリアルはオーストリッチのみ。

いま「かんたんに巻けて」と言ったが、じつはこういうシンプルなパターンにこそ、タイヤーの腕の差があからさまにでる。「クロスオーストリッチ」はもとより、同じシマザキ・シンプルフライの「アグリーニンフ」にしても、私などがどう逆立ちしても当然ではあるけれど、島崎さん本人が巻いたようなああいう質感とフォルムになってくれない。神は細部に宿るどころではない。全部ちがう。イミテイション・ゴールド。

フライフィッシングは毛バリだけで釣るに非ず。神様が乗っていない毛バリでも魚は釣れる。ことに島崎さんのシンプルパターンはごく適当に誰が巻いても、私が巻いてももよく釣れる。シンプルがゆえに魚が警戒せず親近感をもつのかもしれない。叶姉妹じゃなくて長澤まさみを抱きしめたい気持ちはよく分かる。

ただ、こちらとしてはやはり納得のゆく仕上がりのフライを自分で巻いて、納得のゆく一日を過ごしたい。だってフライフィッシングなんだから。魚を釣るだけならなにもこんな面倒くさい釣りをする必要はないわけだ。

ソバやパンといったシンプルな食べ物には、職人の誠実さが隠しようもなく現れる。同じくフライタイイングはシンプルであればあるほど、巻き手の技量と姿勢を問いかけてくる。

一袋300円のオーストリッチの束を前にして、じっと手を見る。

最新号「シマザキ・ワールド12」より