スローでマイペース、したたかな頑固もの、サクラマス
…シロザケとカラフトマスは、オホーツク海で夏を過ごし秋の寒冷化と共に太平洋へ出てゆき、遠くアリューシャン列島やアラスカ湾の南にまで回遊し越冬する。対してサクラマスは海での回遊域が近小で、日本海などへ南下して冬を過ごす。この生態は日本海の成立過程ともからみ、サクラマスに固有の進化の道筋を示していると言えるかもしれない。
シロザケ、カラフトマス、サクラマス三種の母川回帰性の違いは、そこに生活史と環境の人為的変化との関係がからむと、人工ふ化放流での「回帰率」や「回収率」の違いとなって現れてくる。魚たちの回帰性と生活史は以前から変わらないし、変えられない。しかし環境と漁獲は人為的に変わるし、変えられる。こういった関係がサクラマスではどうなっているのかを、本書では考えてゆきたい。
サクラマスがどんな魚であるかは、シロザケ(サケ)と比べてみるとよく分かる。サケが大量に獲れて生活史が単純で分かりやすいのに対して、サクラマスは少量で多様性が大きく分かりにくい。そんなサクラマスを形容するための言葉として、次のような言葉を考えた。スローでマイペース、複雑系で見えにくい、したたかな頑固もの。これらの中身は本書を読み進むにつれてだんだん見えてくると思う。
この一〇〇年でサクラマスの生息環境は激変した
サクラマスの生活史や生態というか性格は何万年と変わっていない。しかしこの一〇〇年は人々の関り方が次々といろいろな形で強まりサクラマスとぶつかっている。(つづく)
(『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』水口憲哉著
本文第1章「美しき頑固もの、サクラマス」より抜粋)