新刊『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』内容紹介 2

※新刊『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』の本文を紹介してゆきます。

コラム1 サクラマスの起源を考える〈※全文公開期間は終了しました〉

 大西洋のノルウェーや英国でサケといえば、タイセイヨウザケ(Salmo salar)を指す。その生活史をまとめたジョーンズ(一九五九)の『サケ』(松井宏明訳)の解説で、一九七四年、筆者は次のように書いた。

カナダでサケ・マス類を研究しているニーヴ(一九五八)は、「サケ属の起源と種の分化」という論文の中で次のような推論を行っている。
最新世初期に大西洋から北極海を通って、北米大陸沿いに太平洋に入ってきたニジマス属の祖先から、北太平洋の外れで隆起を繰り返していた日本海(の原型)において、サケ属が分化成立した。
そしてそこで今から五〇〜一〇〇万年前に、サケ属の祖先系であるサクラマスが出現し、再び北太平洋に分布を広げてゆく過程でより海洋生活に適応したサケ属の他の五種が分化した。太平洋に入ってきたニジマス属の祖先の太平洋東岸(北米西岸)に定着したものが、ニジマスとして分化成立した。

 五〇年後の今も、ニーヴのこの見方は基本的に変わらない。ただニジマスがニジマス属(Salmo)からサケ属(Oncorhynchus)に移ったので、その点で少し見直しをすれば、タイセイヨウザケを祖先として太平洋でサクラマス(O.masou)からベニザケ(O.nerka)、ギンザケ(O. kisutsh)、マスノスケ(O.tshawytscha)、カラフトマス(O.gorbuscha)、シロザケ(O.keta)が分化成立した、ということになる。

 サクラマスについて起こったことは、大原一郎さんや岡崎登志夫さんの遺伝学的研究や化石による系統地理学的研究から、次のように整理できると筆者は考えている。

 太平洋から隔離された大きな湖のような日本海またはその原型に、五〇〇〜三〇〇〇万年前に出現したサクラマスの祖先から、一八〇〜三〇〇万年前にアジア大陸の東端に出現した第二瀬戸内海湖(現在の瀬戸内海と伊勢湾がその名残り)で、サツキマス(アマゴ/O.masou ishikawae)が出現した。なお岡崎登志夫さんや筆者らの研究では、同じ時期同じ場所でカワムツからタニムツが分化したと考えられる。そして、その後内陸部にとり残された古琵琶湖(四五万年前に最大最深となる)で、五〇万年または一〇〜二〇〇万年前にビワマス(O.masou rhodurus)が分化した。

 それ以降何回か繰り返されてきた氷河の前進後退の過程で、九州や本州西部日本海側では水温の低い高山部の渓流に残留するようにしてヤマメがサクラマスから分化した。・・・

・・・続きは本文でお読みください。

(新刊『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』第1章「美しき頑固もの、サクラマス」コラム1より。数字表記は本文ママ)

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